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PANPAKAパンのパンを堪能した一同は、夕凪町自慢の海岸に来ていた。
「わ〜、きれいですね〜」
「咲ちゃん、海入っちゃ駄目かなあ」
「あ、のぞみさん私も入りたいです!」
うららとのぞみは一目見た途端にもう海に入っていきそうな勢いだ。
「え!? ちょっと!」
「ちょっと、まだ水冷たいでしょ!」
咲とりんが慌てて止める。
「え〜、足つけるだけでもだめ?」
「あ、うん足つけるだけなら大丈夫だと思うけど……でも絶対、泳いじゃだめだよ」
「うん、大丈夫! だって私ほとんど泳げないし!」
「あ、それなら大丈夫……って、それなら尚更気をつけないと!」
靴を脱ぎ捨てて海に向っていくのぞみとうららを咲が
慌てて追いかける。
「へえ、面白そう」
ダークルージュも小走りになると宙に飛び上がり、靴を投げ捨てて
大きく水しぶきを上げて波打ち際に着陸した。水が跳ねてのぞみとうららの足を濡らす。
「あ〜、みんな気をつけてね!」
「のぞみー、一応準備体操くらいしておきなさい!」
咲とりんの声が海辺に響いた。

水を掛け合っているのぞみや咲を横目に見ながら、ダークアクアはふうっとため息をついた。
海は太陽の光を反射してきらきらと輝いている。その光は眩しすぎるように
今のダークアクアには思えた。
「……」
背後には欝蒼とした森がある。あの中に入ったほうが気分はいいかもしれない……、
まだしばらく、みんなはここにいるだろう。
ダークアクアはするりとその場から立ち去るとトネリコの森に向った。

「……かれん、」
ダークアクアは誰にも何も言わずにその場を立ち去ったのだが、かれんと
一緒に浜辺の貝を探していたくるみは彼女のその行動に気がついた。
「どうかした?」
「ダークアクアが」
かれんは顔を上げてくるみの見ている方向を見る。ダークアクアの背中が小さく
なっていくのが見えた。
「……いいの? 追いかけなくて」
「すぐに戻ってくるわよ、きっと」
そう答えてかれんはまた掘りかけていた貝の周りを掘る。
くるみはその隣にしゃがみ込んだ。
「ねえかれん、いいの?」
「何が?」
かれんはぴたりと手を止める。
「他のダークプリキュアはそれぞれの元になったみんなと仲良くしてるみたいだけど……、
 かれんとダークアクアは」
「ああ」
かれんはミルクの言いたいことが良く分かった。……恐らくそのことには、
プリキュア5の他の面々も気がついているはずだ。
「……あの子は私を避けてるみたいだし……追い掛け回すのもどうかと思うわ」
「……そう」
かれんは再び手を動かし、貝を掘り上げるとくるみの掌の上に乗せる。
「でも……ずっとこうでいいの?」
「……」
かれんの青い瞳に森が映った。


――ああ、この位の方が気持ちがいい。
ダークアクアは存分に葉を伸ばした木々の間を歩いていた。日の光は木々のおかげで
かなり遮られ、気温も海辺より少し低いようだ。ダークアクアはゆったりとした
足取りでトネリコの森の山道を登って行った。
「……!」
足元をざっと蛇がすり抜けて行く。ダークアクアは驚いて足を止めた。
話には聞いたことがあるが、あんな生きものを実際に見るのは初めてだ。
ここは色々な生き物たちに充ちた場所なのだ。

森の上に立つ大きな樹がダークアクアの視界に入ってきた。とりあえずあそこまで行く、
と決めてダークアクアは歩みを進めた。彼女が歩くにつれて足元で虫が逃げたり、
そばの樹にとまっている鳥が身動きをやめるのが感じられる。
……大空の樹についた。張り出した根の上にあがり、
樹皮に触れるとひやりとした感触が伝わってくる。
祠のようなものがあるのを不思議に思いながらダークアクアは樹の周りをぐるりと一周
してみた。
上ってきた道とは反対側で立ち止まると、ふうと息を吐きながらダークアクアは
大空の樹に背中を預けて休んだ。

――静かね……。
彼女の生活の中では、一人でいる時間というのは珍しい。樹にもたれかかってダークアクアは
目を閉じた。こうして一人でいると自分が正しくこの世界に生まれてきたような
錯覚を覚える。誰かのコピーといった形ではなく……、
「薫お姉さーん!」
どん、という衝撃がダークアクアの左から入ってきた。
「……え?」
思わず左下を見ると、小さな女の子がきゅうっと抱きついている。ダークアクアと目が合うと、
女の子は「あっ」と言って後ろに跳びさがった。

「ご、ごめんなさい人違いしちゃって……」
ぺこりと頭を下げる女の子に、
「別にいいけど。薫って……霧生薫?」
そう尋ねるダークアクアを見て女の子の顔がぱあっとほころぶ。
「薫お姉さんのお友達なの?」
「お友達っていうか……まあ、知り合いよ」
「ひょっとして今日来るって言ってたお姉ちゃんのお友達?」
「お姉ちゃん?」
ダークアクアが聞き返すと、あ、と女の子は恥ずかしそうに呟いた。
「咲お姉ちゃんのことです」
「まあ友達みたいなもの……ね。あなたは彼女の妹か何かなの?」
「みのりって言います」
ふうん、とダークアクアは答えた。妹とは言っても咲とはあまりにていないように思える。
みのりはきょろきょろとあたりを見回して、
「お姉ちゃんは?」
と不思議そうな顔をした。
「海岸よ。たぶん」
一緒に行こう、と言うかのようにみのりはダークアクアの手を握っていた。
強引な子ね、とダークアクアはやや動揺したがとりあえずみのりの
するとおりにしてみることにする。

「薫お姉さんも海岸にいるの?」
「……ええ、多分ね。さっきはいたわ」
みのりは満面の笑みを浮かべた。ダークアクアはそれを少し不審に思う。
「そんなに薫に会いたいの?」
「うん、みのり薫お姉さん大好きなんだもーん!」
「……」
迷いの全くないその回答を聞いてダークアクアはなんだか脱力した。
何なんだろうこの子と薫との関係は、と思わず考えてしまう。
「薫お姉さんってね、転校してきてすぐお姉ちゃんの友達になったみたいで
 うちの店に手伝いに来てくれて、それでみのりとお話してくれたんだよ!」
みのりはダークアクアがそんなことを思っているとは知らずに興奮気味にまくし立てる。
おや、とダークアクアは思った。
「……転校?」
「うん、遠い町から転校してきたんだって!」
「遠い町?」
「うん、だからこの町のことよく知らないって……」
ふうんとダークアクアは思った。今、みのりが話した薫の経歴は
まるで普通の中学生のようだ。ダークアクアが聞いた薫の経歴――ダークフォールから来た
滅びの戦士であること――とは、だいぶ異なる。
そうした違いが生まれた理由も容易に想像はつく。この子、みのりには、
プリキュアの存在やダークフォールの存在を隠しているのだろう。
――この子は薫のことを何も知らないのね……。

「あれっ、みのり……とダークアクア?」
咲は頭から海水をかぶってびしょ濡れになっていたが、森から降りてくるみのりと
ダークアクアを見てきょとんとして立ち尽くした。
「みのりちゃん」
のぞみとうららを乗せてボートを漕いでいた薫がみのりの存在に気がついてボートを岸に寄せる。
「薫お姉さん!」
みのりはダークアクアの手を離してぱっと浜辺に下りるとボートに向かって突進するように走る。
「みのりちゃん」
薫は慌ててボートから飛び降りると――みのりがこのままボートに激突でもしたら
危ない――走ってくるみのりの身体をどんと受け止めた。
「薫お姉さん、ただいま!」
「お、お帰りなさいみのりちゃん」
のぞみとうららはくすくす笑って二人の様子を見ながらボートからちゃぷんと海に降りて
足を浸した。
もうこれで薫はみのりに取られてしまいそうだ。
「薫さんって、本当にみのりちゃんと仲いいですよね〜」
「ね〜」
そんな風に言葉を交わしながらのぞみとうららが浜辺に上がっている横で、みのりは
今日友達と遊んできたことについて薫に報告していた。
「……で、それでね、大空の樹を見て帰ろうと思ったら、樹の後ろに青くて長い髪の
 お姉さんがいたから薫お姉さんだって間違えちゃった。お姉ちゃんたちのお友達だから、
 ここまで一緒に来たんだ!」
「ああ、そういうことだったの」
薫はようやく納得した。ダークアクアとみのりの取り合わせがあまりにも珍しいものに
思えたのでどうして一緒に来たのかと不思議に思っていたのだ。
ダークアクアは所在なさげに足元の砂を掘り返していたが、薫の視線が自分に向いてきたのに
気づいて目を上げた。
みのりは薫の脚にぎゅうっと抱きついている。それを見て一瞬、皮肉な笑みが
ダークアクアの顔を掠めた。
「……嘘つき」
小さくつぶやいたその言葉は薫の耳にもわずかにしか聞こえなかったが
それでも聞き取ることはできた。
「……どういう」
意味、と聞きかけたが、
「ダークアクア! ちょっと手伝って!」
というダークルージュの言葉が浜辺に響きダークアクアはきびすを返すと
呼ばれた方に向かっていった。
「……」
薫は視線でその後を追ったが、ダークアクアは全く振り返ろうとはしなかった。
「薫お姉さん、お姉ちゃんたち貝殻取ってるの?」
「ああ、あそこに貝が沢山いるって……」
「一緒に探しに行こう!」
みのりは薫の手を取ってぐいぐいと駆け出す。

みのりも加えて海でひとしきり遊んだ後、のぞみたち一行は行きと同じように
バスに乗って帰って行ったのだった。

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