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PANPAKAパンでは15人分の椅子とテーブルが屋外に用意されていた。
パンを店内で買って、こちらに持ってきて食べるという仕組みだ。他のお客さん用の
席も用意されてはいるが、普段より大分少ないのは仕方がない。
「お母さん、ただいまっ! みんな来たよ!」
「お邪魔しまーす」
咲とのぞみが真っ先にPANPAKAパンに飛び込んだ。他のお客さんはちょうどいない。
「いらっしゃい、のぞみちゃん」
咲のお母さんはのぞみににっこりと笑うと、咲たちの後ろを見た。一同がぞろぞろと
入ってくる。
「あらあら、本当に大勢ね」
いつかの時みたいと咲のお母さんは笑うと、
「じゃあ咲、みんながパン買うの手伝って」
「は〜い」
咲はトレイとトングを順番にのぞみ達に渡して行く。
満が最後に店の中に入ってきた。
「カレーパンってどこ!?」
と慌てているダークレモネードの袖を「こっちよ」と引っ張るとカレーパンの
棚の前に連れて行った。
「あっ! 二種類も!」
「ほ、本当ですね! この前来た時は一種類しかなかったのに!」
「お客さんからのリクエストで少し辛口の物も作ってみたの。好評だから売ってるんだけど……」
「辛口ってどのくらい辛口なの!?」
ダークレモネードが満に喰らいつかんばかりの勢いで聞いた。満はええっと、と答ながら
ややのけぞる。
「ど、どのくらいって言われても……」
「例えば、『うままろ』の辛口くらいとか! 『インドネシアカレー』だったら中辛だとか!」
矢継ぎ早に商品名を並べるダークレモネードにちょ、ちょっと、と満は答えながら姿勢を立て直す。
「カレーをこだわって買ったことはないから、どの商品の辛口かは分からないけど……
 二つとも持っていったらいいんじゃないかしら」
「二つとも!? いいの、二つもとって!? お一人様一種類限定とかじゃないの!?」
「いい……と思うけど」
満はちらりとレジの向こうの咲のお母さんを見た。
会話が聞こえていたらしく、満に向ってうんと頷いてみせる。
「大丈夫よ、両方とって」
改めてそう言うと、電光石火、ダークレモネードは二種類のカレーパンを
ぱっぱっと乗せるとレジに向う。うららはそんなダークレモネードを見て苦笑すると
自分も同じようにカレーパンを二種類とってレジに向った。
満は、メロンパンの棚の前で立ち止まっているダークアクアのほうに足を向ける。
ダークアクアはメロンパンを取るか取らないか迷っている様子だ。
そっとメロンパンの棚の側に立つとダークアクアが満に目を向ける。
「……これ、おいしいの?」
「ええ、もちろん!」
満は感情を抑えて客観的な評価をしているかのように話そうとした。だが声は
やはり大きくなっていた。それに気づいた咲のお母さんはレジの後ろでくすりと笑う。
「メロンが入っているのかしら?」
「メロンは入っていないわ。この名前は、この形がメロンに似ているからなの。
 一口食べるとふかふかしていて甘い香りが口の中に広がって……」
ダークアクアは不思議そうに満を見た。
「あなたはここの店員か何かなの?」
「……そういうわけじゃないけど」
「満ちゃんはよくうちの店のお手伝いしてくれてるのよ」
咲のお母さんの声が聞こえ、ダークアクアは思わず振り向いた。
「だからうちで売ってるパンのことはもう、咲より詳しい時があるくらいだもの」
「へえ」
じゃあ、とダークアクアは呟くとトレイの上にメロンパンを乗せた。
「あ、買うの?」
「だって美味しいんでしょう?」
「ええ、もちろん!」
「あと一つくらい何か……」
呟きながらダークアクアは棚を離れた。満は後を追いかけ、
「メロンパンと一緒に食べるならチョココロネがお勧めだと思うわ」
「チョココロネ?」
「ええ、これ」
じゃあ、とダークアクアはチョココロネを一つ取るとトレイに乗せ、さらに適当に
飲み物を選んで乗せた。
レジに持っていくと咲のお母さんはそれを見て「あら、満ちゃんセレクト?」と笑う。
「どういうことですか?」
「メロンパンは満ちゃんが大好きなパンで、チョココロネはうちで
 一番人気のパンなの。初めての人にお薦めを聞かれた時は満ちゃん、
 この二つを薦めてることが多いみたいだから」
ふうんと思いながらダークアクアは自分の後ろに立っている満を見た。
そろそろ自分のパンを選び始めているようで、ぱっぱっと迷いなく選んでいる。
もう一人、薫はと見るとこちらはもうじっくりと選んでいるようだった。
何をそんなに迷うことがあるのかと思ってしまうほどだ。

パンを持って、ダークアクアは外のテーブルのところに出た。
明るい日差しの中でのぞみやダークドリーム、うららやダークレモネードはもう
思い思いの席に座っている。

少し迷って、ダークアクアは咲とダークルージュが座っているテーブルに向った。
「ここ、空いてるかしら?」
「うん、もちろん!」
咲がにこにこして答える。
「……キュアルージュは? さっきまで一緒にいなかった?」
「からかい過ぎたら逃げられた」
ダークルージュが親指で自分の後ろを指した。りんの背中が向こうのテーブルに見える。
「ダークプリキュアって、りんとダークルージュみたいにお互いに遠慮がない感じなの?」
一部始終を見ていたらしい咲が苦笑しながらダークアクアに尋ねる。
「……そうね、ダークレモネードとキュアレモネードなんかも遠慮はあまりなさそうね」
「キュアドリームとダークドリームもじゃない? ダークミントも最近は外に出るたびに
 和菓子屋小町に寄ってるらしいし」
「ふーん、じゃあやっぱりみんな……」
そうなんだと言いかけて、あれ? と咲は思った。今の話だと一組足りない。
足りない一組は、今目の前にいるダークアクアと彼女のオリジナルにあたる水無月かれんである。

「ここいいかしら?」
パンを買ってきた薫が咲とダークアクアの間の席を指した。どうぞ、とダークアクアに言われて
椅子を引くとがたりと座る。
満ものぞみとダークドリームたちがいるテーブルに座り、のぞみが、
「咲ちゃーん、みんな座ったよ」と声をあげる。
それを聞いて咲は椅子を蹴るようにして立ち上がった。
「えーっと、それじゃあみんな飲み物持ってるよね」
紙パックに入ったジュースを咲が手にもって掲げると、一同も自分の飲み物を手に持った。
「えっと、何て言おう……とにかく、うちに来てくれてありがとうってことで、乾杯!」
乾杯、とのぞみが一際大きな声を出した。紙パックが互いにぶつかり合う音が
そこかしこから聞こえた。

「ういーっす、お疲れさん」
「ダークルージュ、その挨拶変」
「そう?」
咲たちのテーブルでも乾杯し、紙パックにストローを刺して飲むと、パンを食べる
頃合である。
ダークレモネードの座るテーブルから感嘆の声が聞こえてくるのに
咲は思わずにんまりする。
「そういえば、ダークプリキュアのみんなって会社で働いてるって聞いたけど」
「うん、ブンビーカンパニー」
ダークルージュはぱくぱくとウィンナーロールを口に放り込んでは
オレンジジュースを飲む。
「みんな、プリキュア5のみんなと同い年なんでしょ? すごいよね」
「うーん、同い年っていうか生まれたばっかりっていうか……」
ダークルージュはストローを噛むようにしながら宙に目を泳がせた。
「ああ、それもそうだね」
「あんたもそうなんじゃないの?」
ダークルージュは黙々とパンを食べていた薫に目を向ける。
「……さあ。ダークフォールで暮らしていた時の時間の流れは良く分からないから」
「どういう意味?」
「ダークフォールで満といた時間が数日のことなのか何年も経っていたのか、
 自分たちでもよくは分からなくて」
「ダークフォールって?」
「……滅びの国よ。花も鳥も、風も月もない世界」
薫はほとんど抑揚をつけずに答えた。ふうんとダークルージュは
不思議そうに答える。彼女には薫の言う「ダークフォール」がどのような世界なのか
今ひとつ想像できずにいた。

「あなたはどうしてこちらに来たの?」
ダークアクアが口を開いた。薫は隣のダークアクアをちらっと見ると、
「どうしてって、どういう意味かしら」
と聞き返す。
「どうしてこの世界に住むことに決めたの? その滅びの国があなたのいた場所なんでしょう?」
「……この世界のことを知ったから。この世界の命のことを」
「命? ……」
「そういえば、ダークプリキュアのみんなはやっぱりのぞみ達と仲良くなって
 こっちに住むことに決めたの?」
咲が薫とダークアクアの会話に割り込んだ。んー、とダークルージュが呟く。
「その場の勢いっていうか何ていうか……」
「え?」
「ダークドリームは、キュアドリームと元々仲良いし私たちより一足早く
 目を覚ましてたから……目が覚めてみたらシャドウ様はいないっていうし、
 どうしたらいいか分からなくなったからダークドリームの提案に乗ってみたって感じかな」
「シャドウ様?」
「プリキュアのコピーとして私たちを作った人」
薫の質問にダークルージュは声を潜めて答えた。薫はその回答にわずかに表情を曇らせる。
「まあ、私たち産まれてすぐプリキュアと戦ったから、シャドウ様が結局何したかったのかも
 分からないし……割と成り行きでここにいるって言うか、ね」
「そうね……流され続けている感はあるわね」
ダークアクアがため息をつくように呟いた。
「えーっと、その。ダークアクア、メロンパンどう?」
あまり良くない方向に話が進んでいるような気がして咲は強引に話題を変えた。
ダークアクアはメロンパンを少しちぎって一口食べたところである。
「確かに甘くておいしいわね」
「満のお気に入りなんだよ、そのパン」
「らしいわね。……ねえ、あの店の中にいる……」
「私のお母さんのこと?」
ダークアクアが示した先には咲のお母さんがいた。先ほど一同のそばをすり抜けるようにして
入っていったお客さんの対応をしている。
「あなたのお母さんなの?」
「うん、そうだよ」
「さっきの……、満とずいぶん仲が良さそうだったけど」
「うん、満パン大好きだからね! 満がパン食べて幸せそうにしてると、
 お父さんもお母さんも嬉しいみたい」
「ふうん……」
ダークアクアはまたメロンパンをちぎった。
「ダークミントみたいなもんかな」
「え?」
ダークルージュの言葉にダークアクアが目を向ける。
「この前和菓子屋小町に行った時キュアミントのお姉さんの、えっと……」
「まどかさん?」
咲が聞くと、そうそうとダークルージュは頷いた。
「……まどかさんが店番してたんだけど、ダークミントに言われて羊羹買いに来たって
 言ったらすごく喜んでて。
 『あの子には和菓子を味わう才能がある』とか何とか言ってた」
「……和菓子を味わう才能って何?」
薫が冷静な口調で尋ねると、「さあ?」とダークルージュは軽く答えた。
「良く分からないけど、何かあるんじゃないの」
「ふうん」
「満にはパンを味わう才能がある……のかなあ」
咲は少し首を曲げて隣のテーブルに座る満を見た。満はメロンパンを嬉しそうに
頬張っている。
「そうかしらね」
薫は疑問だと言いたそうに答えながらジュースを一口飲んだ。

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