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ダークアクアは前のほうの喧騒には我関せずと言った様子で窓の外を眺めていた。
彼女の興味は今、夕凪町にいるというプリキュアとそのかつての敵たちの方にのみ向いていた。

 * * *

夕凪町に最寄のバスターミナルで降り、電車に乗り換えると夕凪町までは十数分だ。
十一人全員が遅れないように慌てて電車に乗り込む。
夕凪町ではその頃、咲と舞、満と薫が駅に出迎えに向っていた。
「今日は、えーっとのぞみ達とダークドリームさん達で総勢11人なんだよね」
咲が指を折り折り数える。
「すごいわね」
舞は思わず感嘆した。咲や舞たちと比べるとただでさえ人数の多いプリキュア5が
倍に膨れ上がると、結構な団体だ。
「ね、ソフトボールのチームができちゃうもんね」
「満さんと薫さんはダークドリームさんに会ったことはあるのよね?
 他のダークプリキュアさん達には会ったことがあるの?」
いいえ、と満と薫は首を振った。
「ダークドリームには二回会ったけど、他の人たちには今日が初めてよ」
「彼女ともそんなに色々話したわけでもないけど……」
口々に答える満と薫に、咲はへえ、と不思議そうに声を上げた。
「のぞみの話だと、ダークドリームさんが満と薫に会いたがってるみたいな
 感じだったけど。満と薫にダークプリキュアのみんなを会わせたがってるっていうか……」
満は軽く首を捻った。そこまで慕われる覚えはない。
「ダークドリームさんって、のぞみさんと似ているの?」
舞は咲と満の後ろで薫にそんなことを聞いていた。
「そうね……似ているといえば似ているわ。髪の色とか、食欲とか」
「食欲?」
「あの食欲はどうしたものかと思ったけど、のぞみのコピーということを
 聞いたら納得できたわ」
くすくすと舞は笑った。プリキュアたちはみんな良く食べるのだが、
のぞみ達の大食漢ぶりは突出している。のぞみやりんのような「いかにも良く食べそうな」
メンバーだけではなく、うららやかれん、こまちといった
どちらかと言えば小食そうなメンバーまでもが大食いであるというのがポイントだ。
「そういえば今日、沢山パン用意しておいてねって頼んだけど足りるかなあ」
咲が少し心配そうに満に顔を向ける。
「沢山って、どのくらい?」
「この前プリキュアのみんながうちに集まった時くらい」
「流石に大丈夫なんじゃないかしら……総人数はあのときより少ないわけだし」
とは言っても。と、満は自分で自分の言葉を考え直した。
――プリキュアみんなのときは、ほのかさんやブッキーみたいに小食な人もいるけど……
「そ、そうだよね。どうにかなるよね」
「……どうにもならなかったら、待っててもらってパンを焼くとか……」
「満、それ時間かかり過ぎない?」
「そうね」
そんなことを話している間に駅に着く。のぞみ達がバスから電車に乗り換える時に
電話をしてくれたので、いつぐらいに着くか咲たちには大体分かっていた。
「あ、あれかな?」
隣の駅からトコトコと電車が走ってくる。咲たち四人はじっと電車が来るのを待っていた。

「あっ、咲ちゃん、舞ちゃん!」
「のぞみー久しぶり!」
電車のドアが開くとのぞみが真っ先に降りてきて、駅の外にいる咲たちに気がついた。
咲も大きく手を振る。のぞみの後ろからぞろぞろとみんなが――残りの十人が降りてきて、
満と薫は思わず目を丸くした。予想していたことではあるが本当に多い。
そして……ダークプリキュアたちは、元となったプリキュアたちに
やはり少しずつ似ていた。

「ちょっと待っててー!」
咲にそう言い、のぞみ達は大慌てで改札を回って出てくる。全員が駅の外に
揃ったのはそれからしばらくしてのことである。
「ねえねえ、咲ちゃん。今日もPANPAKAパンのパン食べられる?」
「うん、お父さんとお母さんにちゃんと頼んであるから!」
咲の返事を聞いてのぞみは満面の笑みを浮かべ、早く早くとばかりに駆け出そうとする。

「ちょっと、のぞみ」
りんがぐっとのぞみの襟首を掴んだ。
「その前にみんなのこと紹介しなくちゃいけないでしょうが」
「あ……そっか」
並んで並んで、とのぞみはきょとんとしているダークプリキュア一同を一列に
並べた。
「えっと、紹介するね。私たちの友だちのダークプリキュアのみんなで……、
 ダークドリーム、ダークルージュ、ダークレモネード、ダークミント、ダークアクアなんだ。
 咲ちゃんたちこれからよろしくねっ!」
よろしくお願いしまーす、とダークドリームがぺこりと頭を下げた。
他のダークプリキュアも釣られたように慌てて一礼する。
この辺りは仕事をしていて自然に身についていた。

「え、えっと。よろしく。私たちは、私が日向咲で、」
咲は舞の腕をぎゅっと掴むと自分の傍らへと引き寄せた。
「こっちが、私のパートナーの舞だよ」
美翔舞です、よろしくお願いしますと舞が付け加える。パートナー? と
ダークレモネードが不思議そうに聞き返した。
「うん、パートナー!」
咲がにっこり笑う。ダークレモネードはまだ怪訝そうな表情だ。あ、とこまちが
気がついた。
「咲さんと舞さんって、私たちとは違って二人一緒にいて変身できるプリキュアなの。
 だから、『パートナー』っていう言い方になるのよ」
「あっそうか! みんな、のぞみ達の友だちだもんね。私と舞は二人でプリキュアなんだよ」
「へえ……」
ダークレモネードが驚いたように呟いた。「パートナー」という言葉を聞いた時、
彼女は反射的に「コピー」の意味かと思ったのだが、考えてみれば
プリキュアが「咲」と「舞」という名前だと事前に聞いていた。

「それで、こっちが……」
咲は舞の腕から手を離すと満と薫の間に立った。
「ダークドリームは会ったことあるんだよね。満と薫……霧生満と、霧生薫だよっ!」
満と薫は頷くかのような軽い会釈をした。
「満ちゃん薫ちゃん久しぶり〜」
ダークドリームはにこにこと笑っていた。
「久しぶりね。フェアリーパークで会って以来かしら」
「うんっ!」
とダークドリームは大きくうなずく。あの時、自分は一人だった。
今は五人だ。こうやって仲間のことを満と薫に見せられるのが彼女は何より誇らしかった。
一方、ダークドリームを囲むように立つ
ダークプリキュアたち四人は意外そうな表情を浮かべていた。
「あなた達が……満と薫?」
ダークアクアが声を絞り出すようにして尋ねる。
「ええ、そうよ」
それが何か? とでも続けそうな雰囲気で満は答を返した。
「あなた達がプリキュアと戦ったの?」
「まあ……そういうことね」
満は言葉を濁した。あまり事細かに語りたいことでもない。
ダークアクアは意外そうに顎に手を当て、少し考える。
「プリキュアと同じ二人組だっていうから、プリキュアのコピーなのかと思ったけど」
「あ、そうか! ダークアクア、満と薫はプリキュアのコピーじゃなくて」
「もう分かったわ」
ダークドリームの言葉を遮るようにダークアクアは呟くと、改めてまじまじと
満と薫を見た。

――確かにどうみても、コピーではないわね……。
満と薫は中学生の女の子の二人組みであるとか、短髪と長髪のペアであるとか、
そういった点はプリキュアである咲と舞に類似している。
しかしダークプリキュアたちとは異なり、プリキュアたちを明確に
写し取ろうとして作り出された存在ではない。

満と薫は、コピーではない。この事実を目の当たりにして、
ダークアクアの心には急速に失望が広がった。

「や〜、でもみんな確かに似てるよね」
「でしょでしょ!」
のぞみがダークドリームと肩を組んだ。
「そういえばダークドリームものぞみと同じくらい良く食べるんだってね」
「うん、そう!」
「……どうして知っているの?」
咲はくるっと顔をかれんの方に向けた。
「満と薫から聞いたんです。ダークドリームも良く食べるって」
「そうそう! 私がここに来た時薫ちゃんたちに焼いてもらった食パンすっごくおいしくて!
 色んなお店で食パン買ってるんだけどあの時みたいな味のって中々ないんだよね〜」
「それはそうよ」
当然、というように満が淡々と答える。
「あれはPANPAKAパンで買った食パンだもの」
「そうだ、咲ちゃん!」
のぞみが急に大声を上げた。
「今日もパン食べられるんだよね!」
ばっちり、と咲が指で丸を作ってみせる。
「うん、お父さんとお母さんにちゃんと頼んでおいたから!」
「じゃあまずPANPAKAパンにパンを食べに行くことけってーい!」
というわけで一同はぞろぞろと咲の家に向って歩き始めた。

道すがら、ダークレモネードがうららに
「パンってそんなにおいしいの?」
と尋ねている。
「咲さんのところのはすごく」
「カレーより?」
「カレーパンもありますよ」
「何それ!?」
ダークレモネードがうららの言葉に目を輝かせている。
舞はその様子を見てくすくすと笑いながら、こまちに話しかけた。
「そういえば、この前こまちさんに読ませてもらったお話は完結したんですか?」
「この前? ……ああ、夏休みの時ね」
夏休みにプリキュアみんなで、かれんの別荘に泊まったことがあった。
こまちはその時、書きかけの原稿を持っていたのでたまたま時間のあった
舞とひかりに読んでもらったのである。
「完結したわ」
「どうなったんですか?」
舞が目を輝かせる。こまちが当時書いていた小説は中世を舞台にした大恋愛もので、
ヒロインが二人のヒーローに告白され大変なことになっていたところまでしか
舞は読んでいないのだった。
「持ってくればよかったわね。主人公は結局、どっちも選ばなかったの」
「ええっ!?」
「どちらでもなく、ずっと主人公のそばにいた幼馴染と結婚したのよ」
「え……ああ、あの人」
「そうそう、それでね……実はヒーローの一人が王様の隠し子であることが分かって」
「えーっ!?」
こまちから波乱万丈のストーリーを聞いて舞は
「そんな展開になったんですね」
と呟いた。
「そうそう、あの時ひかりさんと舞さんが、この後はこんな感じになりそうって色々
 話してくれたでしょう? だから、それとは絶対違う話にしようと思ったの。
 そうした方が意外性があって面白いと思って……今日も持ってきたら良かったわね」
「本当に……、のぞみさんたちは読んだんですか?」
「ええ、もちろん」
「へえ」
 羨ましそうに舞は呟き、こまちの向こう側をそしらぬ顔をして
歩いているダークミントに目を向けた。
「ダークミントさんも読んだんですか?」
「え? あ、私は……読んだけど、フィクションの読み方って良く分からないところがあって」
「え、そうなんですか?」
舞は意外に思った。こまちのコピーだから、こまちと同じように小説が
好きなのだろうと思っていたのだが。

「ダークプリキュアのみんなって、私たちのコピーだけど私たちと何もかも
 一緒っていうわけじゃないのよ」
舞の気持ちを察したこまちが微笑んでみせる。
「そうなんですか?」
「そうそう、たとえば……」
こまちは後ろを見やった。列の最後尾にいるりんが、ダークルージュに何か言われて
顔を真っ赤にして言い返しているのをくすくす笑って満が見ている。

「ダークルージュさんはりんさんよりも少しいじめっ子っぽいところがあるわね。
 いじめっ子っていうのもちょっと違うかしら……」
「ははあ……」
確かにりんをからかって楽しんでいるダークルージュはりんとは少し違って見えた。
「ダークミントさんは何が好きなんですか?」
舞は改めてダークミントを見る。ダークミントは切れ長の目を空に向けた。
「そうね……、羊羹かしら」
そこはこまちさんと同じなんですねと舞は思った。

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