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「打ち合わせはしてきたの?」
鞄を置いて上着を脱いでいるダークルージュにダークドリームが目を向ける。
「うん、結構こだわりのあるお客さんだからちょっと手間かかるけど……」
ネクタイを緩めて取ってしまうと、ダークルージュはどさりと椅子に腰を下ろした。

「どんな感じになるんですか?」
「うーん、クールな感じっていうか……」
「最近誌面で大活躍のダークレモネードの写真を載せてくださいって言われませんでした?」
「いや全然」
きっぱりと答えるダークルージュに、ダークレモネードは「見る目ないですね」と
詰まらなそうだ。
「見る目があるからあんたの写真使ってくれって言わなかったのかもね」
「どういう意味ですかあ?」
ダークルージュの憎まれ口にダークレモネードはしれっと答える。
「別に……」とダークルージュはかわすと、客先で作ってきた打ち合わせのメモを
机の上に広げた。
これに忠実に広告をデザインするのが彼女の仕事である。

「ただいま〜」
そうこうしている内にブンビーが帰ってきた。
「社長、お疲れ様です」
ブンビーが席に座るのを見計らってダークミントがお茶を出す。
「ありがとうダークミント君、気が利くな」
「契約は上手くいったんですか?」
「ああ、」
ブンビーは熱いお茶をごくりと飲み込みふうっと深呼吸をした。
「なんとかな……来月に出してもらえそうだ。相当値切られたけどな」
ダークミントはブンビーの愚痴を聞いて苦笑した。そうだ、と思い出したようにブンビーが
床においた鞄を取り上げる。
「おーい、みんな集まってくれ」
手を挙げて声を張り上げるとダークプリキュア5の面々が不思議そうに社長席の周りに
集まってきた。
「今日交渉した会社は楽器のメーカーで……今度出す廉価版の試供品を貰ってきたんだ」
そう言いながらブンビーが取り出した箱の中には小さなハーモニカが入っていた。
「誰か使わないかい」
「はいはーい! やってみまーす!」
と元気よく手を挙げたのはダークドリーム。箱からハーモニカを出し早速とばかりに
口に当てたが、ぱぷっと変な音が出たかと思うとすぐに途絶えた。
ダークレモネードが遠慮なく腹を抱えて笑う。
「な、なんなんですか今の!?」
けたけたと笑い転げているダークレモネードをよそにダークドリームは
「うまく吹けないなあ」と首を捻る。
「あんた、ハーモニカ吹いたことあるの?」
「ないよ」
ダークルージュはダークドリームの答にがっくりと肩を落とした。
「だったら練習しないと駄目なんじゃないの?」
「そういうことかなあ」
「そうでしょ」
ダークルージュは肩をすくめた。
「……ねえ、ダークアクアなら吹けるんじゃない?」
ダークミントがダークアクアに目を向けた。
「……私?」
とダークアクアが困ったような表情を浮かべる。
「貸してもらえるかしら」
ダークミントはダークドリームの手からハーモニカを受け取ると、「はい」とにっこり笑って
ダークアクアにそれを差し出す。
「……」
ダークアクアは困惑した表情を浮かべていたが、やがて諦めたようにそれを受け取った。
声を上げて笑っていたダークレモネードがしのび笑いを漏らしたかと思うと
つんつんとダークルージュの肘をつつく。
「ダークアクアって、何でダークミントには頭が上がらないんですかね」
そう囁いてきたのでダークルージュも思わず苦笑した。
ダークアクアは真面目で仕事が速いこともあって、
ダークプリキュア5一同に指示を出す役回りになることも多い。
そのダークアクアがダークミントの手の上で転がされている様を見るのは
いかにも面白かった。
「オリジナルの関係反映してんだろうけどね」
にやにやと笑いながらダークルージュも囁き返した。
きっとキュアアクアもキュアミントに頭が上がらないのに違いない――というよりも、
キュアアクアとキュアミントがそんなだからダークアクアもダークミントに
頭が上がらないのだろう。というのが、ダークルージュの予想だった。
それ以外の理由がない。

ダークルージュとダークレモネードがくすくす笑っているのをよそに
ダークアクアはハーモニカの箱に入っていた説明書を一通り読むと、
「練習曲」と題された楽譜を机の上に広げハーモニカを唇に当てる。

ゆっくりとしたテンポで奏でられたメロディに、笑っていたダークルージュと
ダークレモネードも思わず耳を傾けた。ダークドリームは目をきらきらさせながら
ハーモニカを吹くダークアクアを見つめている。
ダークミントはとても楽しそうに、胸の前で両手をぎゅっと合わせながら
奏でられる音に耳を奪われていた。
やがて最後まで吹き終えたダークアクアがふっと唇からハーモニカを放す。

「わー! ダークアクア、本当に吹けるんだ!」
ぱちぱちとダークドリームが手を叩いた。
「うむ、」
ブンビーは驚いた表情をしていた。ハーモニカを貰って帰ってはきたものの、
誰もまともには吹けないだろうと思っていたのだ。
「それはダークアクア君に渡そう」
「え? でも」
「いいから取って置きたまえ。楽器は演奏できる人が持っているのが一番だ」
「ダークドリームはいいの?」
ダークアクアはダークドリームのことを気にしているようだったが、
ダークドリームは満面の笑みを浮かべて大きく頷く。
「ダークアクアが持っていてくれたほうが良さそうですから」
「そう」
ダークアクアは目を閉じてまたハーモニカを口に当てた。
今度は楽譜を見ないままで頭に浮かんだメロディーを奏でてみる。
どこか寂しそうな味わいの曲だった。
ダークミントも目を閉じ、音色に浸った。

「こんにちは〜、出前お持ちしました!」
ダークアクアがハーモニカを吹き終えるのと威勢良く出前の配達の人が入ってくるのは
ほぼ同時だった。わあっとダークレモネードが歓声をあげて昼食を受け取りに行く。
「え……みんな、お昼?」
「あ、さっきみんなで注文したんです」
ダークドリームがにこにこと笑いながら答える。ダークルージュとダークミント、ダークアクアの
表情はひきつっていた。
「わ、私の分は……ないよね」
「す、すみません。社長がお帰りになる時間が分からなかったものですから」
ダークミントがぺこりと頭を下げると、いやいいんだよとブンビーは
寂しそうに笑った。
「ランチは外で食べてくるよ、はは」
乾いた笑い声を上げながらブンビーは財布をポケットにねじ込んだ。


「そうそう、そう言えば……」
ブンビーが出て行った後、五人はテーブルにそれぞれの注文した物を
運びお昼ご飯にしていた。お茶はダークミントが人数分淹れている。
ダークドリームは親子丼をぱくぱくと食べながら思い出したように四人の顔を
見回した。
「今度の日曜日、みんな大丈夫だよね? のぞみ達と夕凪町行くの」
確認するようにぐるっと四人を見る。今度の日曜日にはのぞみ達六人と
ダークプリキュアたち五人で夕凪町に行くことになっている。
十一人で出かけるのは初めてだ。ちょっとした遠足である。

「大丈夫かって、私たちに何か予定が入るとでも思ってんの?」
ダークルージュが答えると、ダークレモネードがぷっと吹き出す。
「ダークルージュは知りませんけど、私は予定が入ることもありますよ。
 デートのお誘いとか」
「ああ、はいはい」
「ええっ!? ダークレモネード、そんな相手がいるの!?」
親子丼をひっくり返しそうな勢いでダークドリームは驚いた。
「いるわけないでしょ……」
ダークルージュは何を真に受けているんだと呆れ顔だ。
ちろっとダークレモネードは舌を出した。
「ダークミントとダークアクアも大丈夫ですよね?」
ダークドリームに確認されてミントとアクアも頷いた。
「良かった〜楽しみ」
るんるん気分で親子丼の残りをダークドリームは口の中に流し込む。
「夕凪町には、えっと……他のプリキュアたちがいるんだっけ」
ダークルージュが呟いた。夕凪町については今度の日曜日の計画が持ち上がった時点で
聞いていたはずだが、記憶が曖昧だ。
「うん、プリキュアの二人と――それと満ちゃんと薫ちゃんも」
「あんたをここまで連れてきてくれた人たちだっけ?」
「そう。フェアリーパークでもちょっと会ったんだけど、みんなにも紹介するね」
ダークプリキュアの面々はふうんといった表情で聞いていた。
「あのね、」
とダークドリームは食べ終えた丼を横にどけると机の上に身を乗り出す。
「満ちゃんと薫ちゃんも元々プリキュアの敵だったんだって」
他の四人のダークプリキュアの動きが一瞬止まった。
「そう……なの」
ダークアクアがかろうじて相槌を打つ。
「うん、会った時に何か不思議な気配がする人たちだなって思ってたんだけど、
 のぞみに聞いたらやっぱりそうなんだって。
 だから、何か……みんなに会ってもらうの、ちょっと楽しみなんだ。
 どんな顔するかなって」
ダークアクアはゆっくりとお茶を飲み込んだ。
プリキュアの敵だったとは、どういう存在だったのだろうか。
作ったのはシャドウ様……ではないだろうが。
にわかに満と薫という二人への興味がわきあがってくるのをダークアクアは感じていた。

 * * *

日曜日、のぞみ達とダークドリーム達は駅前のバス停で待ち合わせしていた。
夕凪町方面へはバスで行くのがベスト――とは、のぞみ達が最近出した結論である。
電車で行くと乗換えが多い。バスでいっても夕凪町近くのターミナルに着いた後は
結局電車に乗らなければいけないが、そこまではバスで一本だ。
かなり空いていることが多いのもポイントが高い。
今日もこのバスを待っているのは今のところのぞみ達一同だけだ。
「来た来たー!」
ターミナルで待っていると、夕凪町方面へのバスがやって来た。
のぞみはぴょんと飛び込むようにバスの中に乗る。ダークドリームがそれに続いた。
バスの中には二人がけの席が並んでいる。のぞみが真ん中より少し後方の席に陣取ると、
その隣にダークドリームが座った。りんがのぞみ達の後ろに座ると、へらっとした
笑みを浮かべてダークルージュがその隣に座った。
「あ、あんたここに来るの?」
意外に思ってりんが尋ねると、
「そりゃあ」
とダークルージュは答えた。
「そうなんだ」
何が「そりゃあ」なのか良く分からないままにりんは答える。そうこうしている内に
うららとダークレモネードが通路を挟んでのぞみ達の反対側の席に座った。
バスに乗ったダークアクアはどの席に座るか少し迷ったが、結局一番後ろまで行って端の席に座る。
その隣にダークミントが、さらにその隣にこまちが座った。
かれんもどこに座るか悩んだ末に一番後ろの席の端――ダークアクアのちょうど
反対側に座った。くるみはかれんとこまちの間だ。
バスはしばらく停車していたが、やがて「出発します」というアナウンスという共に
ドアがしまりバスは動き始めた。貸しきり状態だ。
わーい、とのぞみがはしゃぐ声が一番後ろの列まで聞こえてきた。
くすくすとこまちが笑う。
「ダークドリーム、おやつ食べよう!」
とのぞみはポシェットの中をまさぐり始める。
「えっ、おやつ?」
「うん、遠足の時にはおやつを食べるって決まってるんだよ」
「のーぞーみ!!」
後ろの席のりんが立ち上がるとのぞみの頭の上からコツンと叩いた。
「さっき朝ごはん食べたばっかりでしょうが!」
「え〜、だって食べたいもん」
「今食べちゃったら帰りに食べるおやつがなくなるでしょ!」
「あ、そうか……」
まったくもう、とりんはどさりと腰を落とした。と、隣のダークルージュが
にやにやと自分のことを見ているのに気づく。
「何?」
「いや……、私の記憶の中にあるのとそっくりだと思って。
 あんた達のやり取りが」
「記憶? どういうこと?」
「私はあんたのコピーだからね。コピーされた時点であんたが持っている記憶は
 私もある程度持ってるんだよ」
「……?」
ダークルージュの言葉の意味が今ひとつ理解できず、りんは首を捻った。
「だからさ。私はあんたの昔のことも知ってるんだよ。
 ……たとえばあんたとのぞみが小学一年生の時一緒にお風呂に入って、」
「わーっ!」
りんが顔を真っ赤にして大声を張り上げた。
え、とうららやのぞみがりんを見る。
「い、言うな言うなそんなこと!」
にやにやしているダークルージュの口を真っ赤になってりんは抑えた。
「あ〜、私もそれ知ってる!」
前の席からダークドリームが後ろの席に身を乗り出した。
「小学生の時のぞみとりんが一緒にお風呂に入って、」
「だから言うなあっ!」
りんが大声でダークドリームの声を打ち消す。
のぞみは「りんちゃんがそんなに騒ぐようなことってどれだろう?」と考えていた。
お風呂での記憶はいくつかあって、どれかはっきりしない。

「りん、静かにしなさい!」
さすがに最後列からかれんの声が飛ぶ。
「すみません」とりんが答えると、ダークドリームも前を向いて席に座った。
ダークルージュの口に当てていた手をりんが離すと、ぷはっとダークルージュは
息を吐き、
「怒られちゃった」
とりんに向ってにやにやした。
「あんたのせいでしょ……」
とりんが不服そうに答えると、
「まあまあ」
とダークルージュは笑う。ダークルージュは今、りんをからかうのが面白くて
仕方がなかった。

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