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「あ……」
退屈そうに足をぶらぶらさせていたダークレモネードが空を見上げた。
パーク内に充満している闇の気配に引かれるようにして出てきた
ザケンナーやウザイナーを何体か捻ってはいたが、
基本的には待っているだけだったのでいい加減飽き飽きもしていた。
とん、とダークレモネードが地面に飛び降りる。
空には巨大な打ち上げ花火が次々に上がっていた。パーク内の闇の気配も
凄まじい速度で薄れて行くのを感じる。
そして、頭上には再び青空が広がった。パークの外でミラクルライトを振っていた
お客さんたちが戻ってきたらしく、がやがやとした声が聞こえてくる。
ダークドリームたち一同がいる大迷路も本来の姿を取り戻していた。
木々が壁を作っているところは変わらないが、壁にはキャンディーやら大福やら
いろいろなお菓子が埋め込まれいかにも楽しそうな雰囲気だ。

「……で?」
ダークルージュがゆっくりとダークドリームに目を向ける。その目つきは相変わらず鋭い。
「……うん」
ダークドリームにはダークルージュの言いたいことが分かっていた。
「え、えっとこの遊園地はたぶんもとの姿に戻ったんだと思うんだけど、
 楽しむためにはまずこの迷路から出ないといけなくて……」
「じゃ、出ようか」
ダークルージュがぱっと身を落とし、地面を蹴って跳びあがろうとした。

「わーっ、だめだめ、跳んじゃ!」
ダークドリームが慌ててダークルージュの肩を押さえ込む。
「え? 何で?」
「えっと、普通の人はこの壁を跳び越えられるようなジャンプはできないんだよ。
 だから歩いて出よう」
「え〜」
面倒くさいなあとダークルージュは呟いた。「仕方ないわね」とダークアクアが
ため息をつく。
「そ、そうだ! だからみんなまず着替えようよ、その格好じゃ目立つし」
「着替え?」
きょとんとした顔つきの一同に、
「うん、変身を解いて……」
とダークドリームは変身を解いて見せた。みのりに「お姫様みたい」と言われた
その服を見て全員が沈黙する。
「……どうかした?」
ダークドリームは不思議そうに一同を見渡した。
「いや何ていうか……あんた何、その格好」
「えー? 可愛いでしょ?」
「いや可愛いっていうか……」
ねえ? と同意を求めるようにダークルージュはダークミントとダークアクアを見やった。
この二人もうんうんとダークルージュに頷いている。
自分があれと同じような服を着るかと考えると気後れする。
ダークレモネードにはそういった気後れはなかったが、
服のデザイン自体を今ひとつ評価していないようだった。

「その服着ないといけないんですか?」
「ううん、そういうわけじゃないよ。でもみんなまず変身を解いて……」
「どうすればいいのかしら?」
ダークミントの言葉に、「へっ?」とダークドリームはおかしな声を上げた。
「私は変身を解除したことはないわ。他のみんなもそうなんじゃないかしら」
「あ、えっと……」
言われてダークドリームは気がついた。そういえば他のみんなは変身した
姿のままでクリスタルの中から出てきたから、変身を解いたことはないのだ。
「えっと……こう、身体の力を抜くと自然に……」
いつも考えないでしていることなので改めて説明するとなると難しい。
ダークドリームの言葉を聞きながらダークルージュたちも挑戦してみてはいるようだったが
誰の姿にも変化は起きない――と、ぽんと音を立てるようにしてダークルージュの姿が
変わった。
服装は黒っぽいパンツスーツだ。
自分の格好を見て、ダークルージュはほっと安堵の息をついた。
「ダークルージュ、どうやったの?」
「う〜ん、肩の力抜いて、ちょっと深呼吸でもする感じですかね……」
ダークアクアの質問にそう答え、
「ほらこうやって」
とまだ肩に力の入っているダークレモネードの肩を両手で抑えるようにして落ち着かせる。
「そうそう、力抜いて……で、深呼吸。そうそう」
すうっと息を吐くと共に、ダークレモネードもまた変身を解いた。
一同が変身を解き、迷路から出たのはそれから数分後のことである。
迷路の出口を出た途端開けた光景にダークルージュ達は軽いめまいを覚えた。
さんさんと陽光の降り注ぐ遊園地を多くの人たちが楽しそうに、子どもたちは
風船やお菓子やミラクルライトを持ってあっちのアトラクション、こっちのお店と
行き来している。
ダークルージュたちの知る、シャドウに支配された鏡の国ともボトムの闇の力に侵された
フェアリーパークとも全く異なる光景だ。
ダークルージュたちはしばらくその光景に圧倒され、その中に入っていくのを躊躇って
しまっていた。

「どうしたの、みんな? 早く行こうよ」
ダークドリームが促した。
「いや……その、」
ダークルージュは躊躇しながら答える。
「どうかしたの?」
「や……やっぱり私こういうところ慣れてな……」
「いいから早くいこうよ。行けば絶対楽しいから!」
ダークドリームはぐっとダークルージュの手を握ると、腰の引けた彼女を
引きずるようにして引っ張っていく。
「……行きます、か」
「そうね」
ダークレモネードとダークミント、ダークアクアも諦めたようにダークドリームたちに
ついていった。人ごみの中に紛れると、自分がどこか場違いなように思える。
自分たちだけがここにいてはいけないような……だが、遊園地にいる人々は
誰も彼女達がこの場所にそぐわないとは思っていない様子で、何も言わなかった。
彼女達はこそこそとダークドリームについていく。
案内されたのはソフトクリーム販売車の前だった。
「まずおいしいもの食べてそれからパーク内回ろうよ」
「おいしい……もの?」
ダークミントがきょとんとした表情を浮かべる。
「ソフトクリームって甘くってすごくおいしいんですよ!」
ダークドリームは店員からメニューを受け取ると輪になっている四人の中央にそれを差し出した。
「色んな味がありますけど……」
「じゃあ、私はこれ。カレー味で」
ダークレモネードの決断は早かった。カレーという言葉には無性にひきつけられる
ものがある。
メニューの端の方に、どちらかというと色物として載っているようだったがそんなことを
気にしている場合ではない。
ダークルージュがオレンジ味、ダークミントが抹茶味、ダークアクアがグレープ味と
選んでダークドリームがみんなの分をまとめて注文する。
「は〜い、みんな」
すぐにできてくるソフトクリームを順々に渡すとダークレモネードはさっそくぺろりと一舐めする。
「ん、結構いけるじゃないですかこれ」
ダークレモネードが満足そうにしていると、
「あっちで食べよ〜」
とダークドリームが先頭になってソフトクリームを持ったまま5人は
一列になってベンチが置いてある広場に向って歩いていった。
ベンチに座るとダークルージュは慎重にソフトクリームを一口食べ、
「……おいしい」
と呟く。
「でしょでしょ? ミントとアクアも……」
ダークドリームが振り返ると、二人もちょうど食べ始めていた。
「悪くはないわね」
「……ええ」
そんな二人の会話にドリームは心底ほっとした。出だしは上々だ。
「……で?」
しばらくして食べ終わったダークルージュが指についた最後のソフトクリームを舐めながら
挑発的な目でダークドリームを見る。
「次は何をするの?」
ダークルージュの雰囲気にはどこかダークドリームを試して面白がっているような
様子があった。

「うん、えっとね、観覧車乗ろうよ」
あれ、とダークドリームはパーク内中心部にある観覧車を指差す。
「あれ? 結構遠いわね」
ダークアクアは面倒くさそうに呟いたが、「まあまあ」とダークミントがなだめる。
「じゃあ行こう!」
全員が食べ終わったのを見てダークドリームは立ち上がり、一同は彼女を先頭にして
進んでいく。先ほどと比べて僅かな時間しか経ってはいないが、
人の中を歩くのもだいぶ慣れてきた。
「……」
ふと視線を感じてダークレモネードが立ち止まって振り返る。パーク内を大きく東と西に分ける
通路の向こう側に……変身を解いたキュアレモネードがいた。
向こうも立ち止まって、少し心配そうな表情でじっとダークレモネードを見ている。
「うらら、どうかしたの?」
「あ、なぎささん」
チョコポップコーンをぱくついているなぎさが「早く行こうよ」と言うかのように
うららの背中を押す。
ふん、とダークレモネードはうららから目をそらすと
「行くんでしょ」とダークレモネードに付き合って立ち止まっていた他の四人を
置いてさっさと歩き始めた。
「あ、ダークレモネード……」
ダークドリームが驚いたようによろけながらその後を追いかける。
「……変なの」
ダークレモネードはぼそっと呟いた。
「変って、何が?」
ダークドリームがその隣に並ぶ。
「あいつと会って、戦わないでいるなんて……何か変」
「あいつってキュアレモネードのこと?」
「決まってるじゃないですか」
分かりきったことだというようにダークレモネードは答えた。
ダークレモネードにとってキュアレモネード、春日野うららは自分の元となった
存在でありそれゆえに宿敵である。少なくとも宿敵であった、つい先ほどまでは。

「変なんかじゃないよ。これからだってずっと、戦う必要なんてないんだし……」
ダークドリームがそう言うと、不思議そうにダークレモネードは首を捻る。
後ろでその会話を聞いていたダークルージュとダークアクアにはダークレモネードの
気持ちが痛いほど分かった。
彼女達にとってみれば、プリキュアと戦わない方がよほどおかしな話なのである。

観覧車の前には少し列ができていたが、10分も待ったところで乗ることができた。
ゴンドラはゆっくりと空に上っていく。
「わ〜!」と騒いでいるダークドリームの両側にダークルージュとダークレモネードが
並んで下を見ているのに対し、ダークミントとダークアクアはゴンドラの反対側に
二人並んで静かに小さくなっていく風景を見ていた。
――こんなに人がいる……
ダークミントは感嘆していた。
遊園地の中はどこを見ても人で一杯だ。ここからは良く分からないが、
みんなきっと幸せそうな顔をしているのだろう。
キュアミントが「大切な人たち」と言っていた人もきっとこの中に沢山いるのだ。

――ダークミント、笑ってる……
ダークミント本人は気がついていなかったが、その表情は柔らかくほころんでいた。
隣でそれを見ていたダークアクアは、ダークドリームと同じくらい
自然に笑うことができるダークミントを少し羨ましく思った。


「で、次は?」
「次は……ジェットコースター!」
ダークプリキュア5はそんな風にして結局一日遊んで過ごした。
日もかなり傾いてきたころ、
「ご来場の皆様にお知らせですわ」
というチョコラ王女の声がパーク内に響く。がちゃ、と椅子を動かすような音がしたか
と思うと今度はココの声で、
「当パークはもう間もなく閉園となります。本日はご来場、誠にありがとうございました。
 お気をつけてお帰りください」
とアナウンスが入った。そのときダークプリキュア5はぶらぶらと園内の通路を歩いていたが、
「ああ、もうそんな時間か……」
とダークドリームがパーク内の大時計を見上げる。
「どういうこと? もうここには居られないの?」
「うん、閉園の時間だから……」
じゃあこれからどうするのよ。そう言いたそうにダークアクアがダークドリームを
見ると、
「みんなで家に帰ろう」
と事も無げに答えた。
「家? 家って……?」
「私の家。一緒に帰ろ」
ダークドリームは一同を連れて駐車場に向う。駐車場にはブンビーたちが待っているはずである。
「社長〜!」
ブンビーを見つけるとダークドリームは彼のところへ駆け寄る。もう一人の社員は
まだ来ていなかった。ブンビーは最初にこやかだったが
ダークドリームの後ろについてくる四人を見て顔色を変えた。
「社長」
「や、やあダークドリーム君……後ろの皆さんは?」
一応聞いてはみたものの、ブンビーにはその答えが分かっていた。後ろの四人はどう見ても
プリキュア5にそっくりなのだ。ダークドリームと同じような存在だろうと
容易に想像はついた。
「私の仲間なんです! 今日ここで再会して……それで、一緒に帰りたいんですけど」
ああやっぱりね、とブンビーは思った。今日はここで大変なことが起きたのだ。
彼女達がどういう経緯でここにいるのかは分からないが、レインボージュエル争奪戦と
関係する何かでここに来て、それでダークドリームと会ったのだろう。

「ううむ……それなんだが」
「えっ」
渋い表情のブンビーにダークドリームは思わず驚きの声を漏らした。
ブンビーは彼女達のことを受け容れてくれるに違いないと思っていたのだが……、
「あ、あの! みんな私と同じような存在で、だから一緒に会社で……」
「いやそれはいいんだが、」
ブンビーはダークドリームの言葉を制した。
「この車だと全員は乗れないんだよ。……電車で帰ってもらえるかな?」
「あ、はい。分かりました」
じゃあみんな、とダークドリームは四人を連れて駅の方に向った。ブンビーはその
後ろ姿を見送りながらしばし考える。
――四人、か……
ブンビーカンパニーの活動が軌道に乗ってきたとはいえ、社員をいきなり
四人も増やすのは正直きつい。だが、彼女達を放っておくわけにもいかないだろう。
彼女達が望むなら、ブンビーカンパニーで雇用するべきだ。彼女達がそれを望むなら。
一人当たりの給料は安くなるが……、
――仕事頑張るか。
とブンビーは天を仰いだ。

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