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「急がないと!」
キュアアクアとミルキィローズは焦っていた。
仲間達が敵に襲われているのは分かっているが、なかなかその場にたどりつくことができない。
先程から同じところをぐるぐる回っているかのような錯覚さえも覚える。
今、またダークルージュとダークアクアの協力技による爆炎があがった。
「もう、やってらんないわ!」
遂にローズが業を煮やした。爆炎の上がった方角にある壁に向けて走ると、
「アクア、私についてきて!!」
と道をふさいでいる大迷路の壁を蹴りぬける。
「ええ!!」
アクアとローズは、ローズが穴を開けた壁を何枚も何枚も通り抜けた。


キュアドリームの周りにもうもうとあがった水煙と炎は、しばらくしてから
少しずつ落ち着き始めた。ダークルージュ達の眼から隠されていた、ぐったりとした
キュアドリームの姿が徐々に見えてくる。
「何……?」
予想外のものが見え、ダークルージュは思わず驚きを口にした。
キュアドリームは身体のあちことに傷がついてはいるが、ダメージはそれほどでもない。
彼女の上に覆いかぶさったダークドリームがダークルージュ達の攻撃を吸収して
しまったらしく、ぐったりと横たわっている。

「ダークドリーム……あんた……」
ダークルージュは苦虫をかみつぶしたような表情をした。
「う……」
と、ダークドリームが低く唸るような声をあげて弱々しく眼を開ける。
ほぼ同時に、ローズの拳でキュアミントのすぐ横にある壁に穴が開いた。
「みんな!!」
とアクアとローズがこの区画に飛び込もうとしたが、
「ダークネスソーサー!」
放たれた深緑色の盾が二人の進路を阻む。二人はしたたかに顔を打ち付けた。

――ダークミント……
キュアミントは彼女がここに来たことが分かってひどく悲しくなった。倒れているキュアミントの
位置からは彼女の背中しか見えない。彼女が今何を考えているかは分からないが、
やはり彼女とは分かり合えなかったのだろうか……、


「みんな、もうやめようよ……」
ダークドリームがかすれた声をあげた。
ふん、とダークルージュは鼻を鳴らすとコツ、コツと靴音を立ててダークドリームと
キュアドリームに近づく。地面に脚を伸ばした格好で座っているキュアドリームの脚の上に
横たわっているダークドリームの上にしゃがみ込むと、
軽く顎をつかんでぐいっと自分の方に顔を向けさせる。
「ちょっと」
乱暴なやり方にキュアドリームが抗議の声をあげるがダークルージュは意に介さなかった。

「みんなって? 誰?」
「それは、ダークルージュとダークレモネード、ダークミントとダークアクア……」
話にならない、とでも言いたそうにダークルージュはダークドリームの顎を放すと立ち上がった。
「『やめようよ』なんて言われる筋合いじゃないわね」
「そうですよ、仲間でもなんでもないんですから」
ダークレモネードがダークアクアに同調しながら手近にあった岩の上にぴょこんと座った。
脚を組み、悠然とした表情でダークドリーム達を見降ろしている。

「それでも……」
ダークドリームは地面に両腕をついて身を起こそうとしたが、力が入らずに崩れ落ちてしまった。
それでも言葉だけは続ける。
「みんなが、私のこと仲間だと思ってなくても……わたしはみんなのこと仲間だと思ってるから。
 ねえみんな、もう止めようよ! ここは本当はすごく楽しい遊園地で……ここで遊べば、
 みんなだってきっと笑顔になれるよ。だから……」
「だから?」
必死に言葉を振り絞るダークドリームに、ダークルージュは肩をすくめた。
「笑顔とか楽しいとか、そんなのは私たちには必要ない」
「それはみんながまだ、そういうことを知らないから……習ってないから……」
「習ってないことなんて私たちに必要なんですか?」
座ったままのレモネードが冷笑する。
「そうね、必要なことならシャドウ様が全て教えてくれたはず。
 私たちが知らないことは、必要ではないことよ」
「ダークアクアッ!!」
キュアアクアがソーサーの向こうから吼えた。
何? とうるさそうにダークアクアが目を向ける。
「ダークアクア! あなた、前は一人で十分だとか何とか言ってたじゃない!」
「ええ、その通りよ」
何を今更、とダークアクアは言葉を繋いだ。
「でも、あなたは今ダークルージュやダークレモネードたちと一緒に
 私たちの前に現れた! それはあなたが仲間の存在を認めたからじゃないの!?
 シャドウに習っていないことを、あなたが覚えたからじゃないの!?」
「勘違いしないでほしいわね」
ダークアクアは眉一つ動かさずに答える。
「私は仲間と一緒に行動している覚えはないわ。『プリキュアを倒す』という目的が
 たまたま一致しているからこうしているだけよ」
「ダークアクア!!」
昔の自分に似ていると思うと余計に腹が立つ。ソーサーを拳で叩き割ろうとして、
キュアアクアとミルキィローズは抵抗のなさにつんのめった。

「ダークミント……!?」
ダークネスソーサーが消えた。キュアアクアとミルキィローズが転がりこんでくる。
ダークアクアはソーサーをしまったダークミントの背中をきっと見つめる。
「ダークミント、あなたどういうつもり?」
「……私は、プリキュアを倒す気はないわ……」
「どういうこと」
ゆっくりと振り返ったダークミントの表情は憂いに沈んでいた。すぐにでも攻撃しようと
気持ちを昂ぶらせていたキュアアクアとミルキィローズは少し様子を見ようと、
警戒しながらも攻撃は控える。
「私は、……ダークアクア、あなた達を守りたかっただけ……」
「ダークミント、あなた……」
「私は誰かを守ることの強さをキュアミントに教えられたわ……そして誰を守りたいかと
 考えた時、一番に浮かんだのがあなた達だったから」

その言葉はその場にいた全員に聞こえていた。地に倒れているキュアミントにも。
――分かってくれていた……
そう思うと、キュアミントは再び身体の中に力が戻ってくるような気がした。

だがダークアクアにはダークミントの言っていることは許容できない。
つかつかとダークミントに詰め寄る。
「私たちを守る気はあっても、プリキュアを倒すことはできないと言うの!?
 あなたといいダークドリームといい、シャドウ様を裏切る気!?」
「それは……」

「……もうシャドウ様はいないんだよ……」

詰め寄るダークアクアに、目を伏せるダークミント。二人の間に一瞬生まれた沈黙に、
ダークドリームのこの言葉が飛び込んだ。え? とダークルージュが目を丸くする。
「ば……馬鹿な、世迷いごとを……」
「本当だよ……シャドウ様はもういない。いたらここに来てるはずだよ……」
ダークルージュ、ダークレモネード、ダークアクアの三人は思わず辺りを見回した。
……確かに、シャドウが来そうな気配はない。
――シャドウが復活してなくて助かったわ。
とキュアアクアは内心胸を撫で下ろしていた。ダークドリームの言っていることに
一つも嘘はないのだが、ここに復活したシャドウがやってきたりしたら話が
大変なことになるのに決まっている。
世界の支配を狙った存在としてはボトムの手下になって動くわけにはいかない、といった
理由で出てこないのかもしれないが、とにかく出てこないのはありがたかった。

重苦しい沈黙がダークプリキュアたちに広がった。
先ほどまでの余裕のある表情が一転、不安にかられた顔つきになる。
「それでも……、」
最初に口を開いたのはダークルージュだった。
「それでも、私はプリキュアを倒す」
「どうして……?」
ダークドリームが悲しそうに聞き返す。その表情は今にも泣きそうだった。
「私はそれしか知らないから。プリキュアを倒すことしか」
「そうですよ」
とダークレモネードが座ったままばさりと自分の髪をかき上げた。
「私たちは、ダークルージュにダークレモネード。ダークミントにダークアクア。
 それにダークドリーム。それぞれのプリキュアの闇なる者でしかないんです。
 プリキュアを倒すこと以外、私たちに存在意義なんてありませんよね」
「そうよ、ダークミント。プリキュアを倒す以外、私たちに何かできることがあるとでも言うの?」
ダークアクアが更にダークミントに詰め寄る。
「それは……」
とダークミントは目を伏せた。

「できるよ!」
キュアドリームが凛とした声を張り上げ、立ち上がった。腕にはダークドリームを
抱き上げている。
「ダークドリームにはできてるんだもん、あなた達にだってできるよ」
「適当なことを言うな! そんなことできるわけがない!」
ダークアクアが怒鳴った。だがその表情は怒りと言うよりは戸惑いと恐怖に満ちていた。
まるで捨てられた仔犬のような……、
「……!」
その様子を見てキュアミントが立ち上がった。じっとしていたおかげで体力も随分
回復している。……キュアミントはダークアクアのそばに駆け寄ると、
蹴り倒そうとした彼女の足を避け彼女をぎゅっと抱きしめた。
「なっ……!?」「こまち!?」
ダークアクアとキュアアクアが同時に叫ぶ。キュアミントは彼女の温もりの中に
ダークアクアを包んだ。
「大丈夫よ……そんなに怖がらなくても」
「放せ! 私は何も怖がってなどいない!!」
ダークアクアは身をよじりキュアミントの腕から逃れでると、「ダークネス……!!」と
弓を構えようとした。
「ダークアクア!!」
今度はダークミントがダークアクアの胸にもたれかかるようにして飛び込んだ。
「ダークミント!?」
ダークアクアが弓を握ろうとした左手は、ダークミントの右手に握られていた。
「何をしてるっ!!」
「私にも……」
ダークアクアにもたれかかっていたダークミントが泣きそうな目でダークアクアを見上げた。
「私にも、どうしたらいいかなんて分からないけど……、でもキュアミントのことも
 ダークアクアのことも私は守りたい……」
「……」
ダークアクアが諦めたように黙った。
手はまだ繋いだまま、ダークミントはダークアクアの身体から身を起こす。
「ダークアクア。……一緒にいましょう」


「……」
「……」
ダークルージュとダークレモネードはぽかんと口を開けたままダークアクアたちの
やり取りを見守っていた。
やれやれ、といった表情でキュアルージュとキュアレモネードが立ち上がる。
時間が経過したおかげでかなり回復していた。

「ダークルージュ」
キュアドリームがダークドリームを抱きかかえたまま、ダークルージュに歩み寄る。
ダークルージュは警戒するように一歩引いたが、キュアドリームは尚も近づいた。
「ダークドリームのこと、頼んでいいよね?」
「……頼む?」
「うん。見ててあげて」
有無を言わせず、キュアドリームはダークルージュにダークドリームを抱きかかえさせた。
ダークルージュは腕の中のダークドリームとキュアドリームを見比べて困惑した表情を浮かべる。

キュアドリームはそれを見てにっこりと微笑んだ。
「私たちに少しだけ時間をくれる?」
「時間?」
「うん。必ずこの遊園地を元通りにするから……そしたら、ダークドリームと
 一緒にここで遊べばいいよ! そうしたら、あなた達にもきっと楽しいとか笑顔とか、
 どんなことか分かるから!!」
みんな行こう! とキュアドリームは仲間たちに呼びかけ、「Yes!」とプリキュア5と
ミルキィローズはその場を離れた。


「ここは……プラネタリウム?」
迷路を出てすぐの場所にある建物を見てミルキィローズが身構える。
「中に入ってつぼみたち探そう!!」
キュアドリームを中心にして、プリキュア5はプラネタリウムに突入していった。

 * * *

「……何か、丸め込まれただけのような気がしますけど」
すっかり戦意を喪失した状態で残されたダークプリキュア5。ダークルージュがダークドリームを岩の上にそっと座らせたのを見て、ダークレモネードが呆れたように岩の上から呟いて立ち上がった。
「ダークレモネード……?」
ダークアクアの身にもたれるようにして立っていたダークミントが不安そうな目でダークレモネードを追いかける。
「私は丸め込まれるつもりなんてありませんから。せっかく手に入れたこの新しい力……、
 プリキュアを倒さなくて何に使うんですか」
そう答え、ローズとアクアが開けた壁の大穴からその場を立ち去ろうとする。
「待って……ダークレモネード」
ダークドリームがよろよろと立ち上がると、穴の前に立ち塞がった。
「何のつもりですか? そんなにプリキュアを守りたいんですか?」
「1人じゃ……勝てないよ。みんなが使ってる新しい力は、チェーンとかそういうのは……
 プリキュアたちが今持っている力を写しただけなんだよ。前と同じで、プリキュアは
 今この時も成長してる。……新しい力があったって、プリキュアには勝てないんだよ……」
「……分かってますよ、そのくらい。でも」
それしかないじゃないですか。そう言って、ダークレモネードは壊れた玩具のように
けたけたと笑って見せた。
「そんな……ことない!」
「信じられません。あなたの言うことなんか」
ドリームを押しのけようとしたダークレモネードだったが、ドリームはそれでも立ち塞がった。
「ダークレモネード……、私ね、ドリームのことが大好き。
 いつも笑ってて、みんなと楽しそうにしてるドリームが好き」
「それが私と何の関係が」
「ダークレモネードも、私には大切なの。仲間だから!」
「……。そこが嘘っぽいんですよ」
ダークレモネードは乾いた笑い声を立てた。
「仲間だ仲間だってさっきから言ってますけど、私達ろくにお互いのことなんか
 知らないじゃないですか。ばかばかしい」
話は終わり、とばかりに歩みを進めようとしたダークレモネードの肩を誰かの手が
強烈に掴む。ダークレモネードは振り返らずに答えた。
「なんですか、ダークルージュ。ダークドリームの『仲間』として私と戦う気ですか?」
「そんな……」
ダークドリームの顔が青ざめる。プリキュアと戦うのも避けなければいけないが、
同士討ちも避けなければいけない。
だが、ダークルージュは意外な言葉をダークレモネードに投げかけた。
「プリキュアを倒すというなら協力する」
「え?」
「ええっ!?」
ダークレモネードとダークドリームが同時に驚きの声を上げる。
振り返ったダークレモネードに、ダークルージュは更に続けた。

「ただし、条件がある。ここが元の場所に戻って、ダークドリームが私たちに
 『楽しいこと』とやらをさせて……それに、納得できなかったら」
「それまで待てって言うんですか?」
「そう。納得できなかったらプリキュアを倒す」
「どうして、わざわざ待ったりするんです?」
「……見てみたいから。本当に私に、プリキュアを倒す以外のことができるものなのか」
「ふうん」
ダークレモネードは軽く答えた。
「ま、そのくらいなら待ってあげてもいいですけど」
彼女が再び岩に座って足を組んだので、ダークドリームはやっと安心し、
――絶対にみんなに楽しんでもらわなくちゃ!
と決意を新たにしたのだった。


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