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「じゃあ私、またのぞみたち探すことにするね」
ダークドリームは身体を起こすと、どちらに行こうかときょろきょろと首を振る。
「こっちの方にはいなかったわ」
と薫が自分たちが歩いてきた方向を指差した。
「ありがとう……じゃ、こっちかな」
ダークドリームは満と薫、みのりと別れて歩き始めた。少し行ったところで振り返ると、
みのりが薫に手を繋いでもらって、満と薫に挟まれるようにして歩いている後ろ姿が見える。

――並んで歩いてる……
ダークドリームは満と薫の過去についてはのぞみ達から一通り聞いていた。
滅びの国ダークフォールで生まれた戦士であり、プリキュア――ブルームとイーグレットを
倒すためにこちらの世界にやって来た。
色々あって咲や舞の友達になり、この世界を守ってくれたそうだ。
「色々あって」のところはこまちが詳しく話を聞いているそうだが、
のぞみにとってもダークドリームにとっても「満と薫は咲と舞の友達になった」だけで
情報としては十分だ。
ある意味では自分と良く似ている存在だが、違うところがある。
二人が二人とも、プリキュアの友達になったことだ。
満と薫が二人で一緒にこの世界に来たのなら、ダークドリームは五人でこの世界に
産み出された。
だが、今この世界にいるのは彼女一人だ。他の四人はクリスタルに戻ったまま
こちらに戻ってきてはいない。きっといつか戻ってくると信じてはいるが……、

――ん?
足元から冷気のようなものが漂ってきた気がしてダークドリームは思わず足を止めた。
だがその気配はすぐに消えた。

――気のせい……かな?
ダークドリームは気を取り直してまた歩き始めた。
キンコンカンコーンと遊園地のあちこちに取り付けられたスピーカーからチャイムが鳴る。
ん、と顔を上げると可愛らしい声が流れてくる。

「ミニショータイムのお知らせですわ。噴水前広場で、幽体離脱ショーが行われます。
 皆さまぜひご覧くださいませですわ」
幽体離脱? と思いながらも水の音のする方に行ってみると、そこが噴水前広場だった。
集まってきた人たちに混ざって座ると、テケテンテンという陽気な音に乗って
ミギリンとヒダリンが噴水の両側から現れる。あ、とダークドリームは思った。
彼らに会うのも随分久しぶりのことだ。

「ありがとうございました〜」
盛大な拍手を浴びて幽体離脱とそれからの蘇生を見せたミギリンとヒダリンが噴水の後ろに
ひっこむと、ダークドリームは観客の波をかき分けるようにしてそこに走った。
ショーを終えてドリンク剤を飲んでいたミギリンたちがその姿を見てえっと目を丸くして飛びあがった。
「わわっ、ダークドリームさんっ!?」
「ミギリンヒダリン、久しぶりだね」
「ど、どうしてあなたがここに!?」
「招待状が来たから来たの」
「そうじゃなくて、ダークドリームさんは……鏡の国で」
あ〜、とダークドリームは思った。そういえばクリスタルの中で目覚めてからミギリン達に
会ったことはない。ダークドリームが消滅したままだと思っていても不思議はない。
「んー、私もなんか良く分からないんだけど、この前気が付いたらクリスタルの中に
 いたから出てきちゃった。それでこっちに来たんだけど」
「え。……そうだったんですか?」
ミギリンとヒダリンは顔を見合わせた。
「うん。私、どうしてまた目が覚めたのかな」
「さあ……」
ミギリンとヒダリンにもそれは分からないらしく二人はもじもじと手を合わせている。
「そっか」
腰をかがめて二人と話していたダークドリームが腰を伸ばすと、
「あの、」
とミギリン達がダークドリームを呼んだ。
「ん?」
彼女は再び腰をかがめる。
「実は、ここ最近4つのクリスタルの中の影が濃くなってるんです」
「え? 4つ?」
「はい……ダークドリームさんのピンクのクリスタル以外の4つのクリスタルです」
「それって」
その影はダークルージュ達のものではないだろうか。ダークドリームはそう思った。
もちろんミギリン達もそう思っていた。
「じゃあ……どうなるの?」
「分かりません……何かのきっかけがあれば出てくるかもしれません」
「きっかけって?」
ミギリンとヒダリンは顔を見合わせてから
「さあ……」
とだけ答える。
「ねえ、ひょっとして私もその、何かのきっかけがあったから
 目を覚ましたのかなあ」
「そうかもしれません。でも……分かりません」
「そっか」
ダークドリームは今度こそ本当に立ち上がった。
「ありがと、ミギリンヒダリン」
そう言ってまた遊園地を歩き回り始めるダークドリームを見て、
ミギリンはヒダリンと顔を見合わせる。
「ねえヒダリン、一度鏡の国に戻ってクリスタル見てこようよ」
「え、だってまだもう一回ショーがあるよ」
「うん、だからちょっとだけクリスタル見てそしたらすぐ帰ってこようよ。
 なんか心配なんだ、クリスタルのこと。
 プリキュアのニセモノたちが出てくるかもしれないし……」
ダークドリームがキュアドリームと分かり合えたことはミギリンヒダリンも知っている。
だから彼女が再びこの世界に現れたことには特に警戒を覚えなかったが、
他のダークプリキュアに関しては話が別だ。
うーんとヒダリンは腕組みをした。
「じゃあちょっとだけ帰ろうか」
「うん!」
ミギリンとヒダリンはすぐに手をつなぐと、てててと短い足で走り出した。
スタッフ用トイレに入って鏡に向う。
昔のミラクルライトではこちらの世界と鏡の国との行き来は深夜に限られていたが、
最近のものだといつでも出入りができるので便利だ。
「ちょっと! ちょっとちょっと!!」
ミラクルライトを鏡に照らして二人で唱えると、ミギリンとヒダリンはすぐに鏡の国に
移動していた。

「大丈夫かな……」
すぐに二人は、クリスタルが置いてある部屋に向う。
クリスタルは静かに光り輝いて二人を出迎えた。ピンクのクリスタル以外の
4つのクリスタルの中には相変わらず影が黒々と渦巻くように存在していた。
「朝と変わりはないみたいだね」
「うん」
たまに影がクリスタルの中でびくびくと動くので驚くが、
昨日もあったことだ。今日特に事態が変化したわけではない――、
「じゃあ戻ろうか」
「うん!」
安心した二人はくるりと身体の向きを変えると来た道を急いで戻った……戻ろうとした。
ドン! とどこかからか鈍い音が聞こえたかと思うと、背後にある4つのクリスタルが
はっきりと震動した。

「ああっ!」「あ〜っ!!」
ミギリンヒダリン、二人の見守る前で4つのクリスタルから影が飛び出す。
影はごうっと二人の上を飛び越えると、二人がフェアリーパークからここに
戻ってくる時に使った鏡に吸い込まれるようにして飛び込んでいく。
「まずいよミギリン! ダークプリキュアたちがフェアリーパークに!」
「うん、すぐ戻ろう!」
二人も影を追いかけるように鏡の中に飛び込むと、陽光に溢れたパーク内に戻る。
だがその光景も一瞬だった。
「あっ、ミギリンあれ!」
ヒダリンが空を指差す。闇の塊のような槍がフェアリーパークに突き刺さり
轟音を上げた。
「わーっ!」
ミギリンとヒダリンは一般客に混ざって大慌てで逃げ出した。

 * * *

プリキュアの前に一度は撤退したノーザたちだったが、
闇の力の本格的な侵攻と共にフェアリーパークは闇の力により変貌を遂げていた。
「つぼみ! えりか!」
「シプレ! コフレ!」
キュアドリーム達6人はつぼみとえりか、そのパートナーの妖精たちを探して走り回る。
レインボージュエルを守るために――、みんなの希望を守るために。
パーク内にはアトラクションが多い。
その片隅にでもいるかもしれないと思うと探索も勢い細かいところを良く見ていく形になる。

「ここはっ!?」
「巨大迷路だった場所よ!」
ジェットコースターのレールの上を探したドリームたちが次に目をつけた
アトラクションは、高さ3メートルくらいの木々が壁のように立ち並んで作られている
巨大迷路だった。
本来のフェアリーパークでは楽しいはずのアトラクションだが、
今は木々のあちこちに不気味な色合いの花が咲いたり木の一部が腐ったように崩れていたりと
総じて恐ろしげな雰囲気に包まれている。
「じゃあ、この中探そう!」
「待って、手分けした方がいいわ」
知性のプリキュア、キュアアクアがすぐにでも飛び込んで行こうとした
ドリームを制止した。
「手分け?」
「ええ。私と……私とローズは出口の方に回ってそちらからつぼみたちを探すわ。
 ドリームたちも、中で道が分かれていたら手分けして行った方が早いと思うわ」
「分かったわ、アクア」
スタート地点から突入したドリーム組は分岐点ごとに分かれて行ったので、
すぐに4人はばらばらになった。暗い迷路の中を歩き回りながら
つぼみたちの姿を探す。時折、
「つぼみちゃーん、えりかちゃーん」「つぼみさーん、えりかさーん」
というドリームやミントの声がレモネードのところまで聞こえてきた。

「つぼみさーん、えりかさーん」
レモネードもあたりをきょろきょろと見回しながら歩いて行く。二人一緒に居れば
いいけど、とレモネードは思った。こんな不気味な空間に、変身もせずに独りでいるのは辛い。

レモネードの背後でがさっと音がした。振り返ると赤い髪を持つ人の姿がちらりと見えた。
「ルージュ! また道が合流したんですね!」
たたっとレモネードはその人影に駆け寄ろうとして足を止めた。
「あなたは……!」
一瞬、その人物はキュアルージュに見えた。だが実際には違っていた。
良く見ればキュアルージュとは似ても似つかない。
「ダークネスストライク!!」
咄嗟にレモネードはプリズムチェーンを放ち、赤く輝く炎を宿した
彼女を止めようとする。だがダークルージュが炎を3発纏めて蹴り出す方が
一瞬早かった。
「きゃあああ!?」
灼熱の炎は逆にプリズムチェーンを伝いレモネードに迫る。つんざくような悲鳴を上げて
レモネードは地に倒れた。

「レモネードッ!!」
レモネードの悲鳴は迷路の中にいたプリキュアたち全員に聞こえていた。
誰もが声の聞こえた方角に走る。
「レモネード!!」
一番近くにいたキュアルージュだったが、声の方に走ったものの壁に阻まれ
苛立ちを覚える。
「えーい!!」
一々迷路に従っていられるか、とルージュは壁を跳び越える道を選択した。
助走をつけてジャンプするとふわりと身体が宙に浮く。一瞬、だが確実に、
彼女の無防備な姿が空を待った。
「ダークネスアロー!!」
ルージュがはっと気づいた時には自分の真下から激流の矢が迫ってきていた。
「ア……アクア……!?」
三本の矢に貫かれルージュの身体が地に落ちる。
「ぐ……」
立ち上がろうとしたルージュの視界にキュアアクアと良く似た、しかし全然似ていない者の
姿が入った。

「あんた……ダークアクア……」
ダークアクアは腰に片手を当て、ルージュを冷たく見下ろしていた。
ルージュのそばにはレモネードも倒れていたが、手を伸ばすことはできなかった。

「レモネード!!」
レモネードの悲鳴を聞いて駆けつけたミントがようやくレモネードが倒れている区画に
足を踏み入れる。
だが、
「ダークネスチェーン!!」
「プリキュアエメラルドソーサー!」
金色にぎらつく鎖が彼女を捕縛せんとばかりに伸びてきた。すぐにソーサーで弾き飛ばそうとした
ミントだったが、チェーンがソーサーを突き破る。捕縛ではなく、唸るようにしなったそれは
ミントの身体を幾重にも打ちつけた。
「う……」
少しの間耐えていたミントだったが、やがて地面に崩れ落ちる。
「意外と大したことないんですね」
嘲るようなキュアレモネードの声がすぐ近くに聞こえた。

――ダークミントは……?
キュアミントは痛みの中で視線を動かし四人目のダークプリキュア、ダークミントを
探そうとした。キュアミント自身のコピーであり、かつてミントは彼女と戦った。
戦いの最後にはダークミントもキュアミントの気持ちを理解してくれた……と
キュアミントは信じている。彼女の姿は倒れたミントの視界にはなかった。
――私たちとの戦いには参加しないことにしたの……?
そうであってほしいとキュアミントは願わずにはいられなかった。


「油断はできないわ。まだ三人。残りがまだその辺りにいるはずよ」
余裕綽々のダークレモネードに対し、ダークアクアの声は冷静だった。
「まあ、すぐ来ると思うけど……」
「みんな!」
キュアドリームの声が聞こえた。
来た! とダークルージュ達が構える。
「みんな、だいじょ……」
「ダークネスチェーン!」
「わっ!?」
ダークレモネードの放った二本のチェーンにのぞみは両腕を取られ、近くの木に
両腕を広げた形で叩きつけられた。
「ダークネスストライク!」「ダークネスアロー!!」
はっと目を開いたドリームの眼前に赤黒い炎と激流の矢が渦をまいて迫る。
「キュアドリーム!!」
ルージュとレモネード、ミントがなんとか身体を動かし彼女を庇おうとしたが間に合わず、
爆音と爆炎がキュアドリームを包んだ。



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