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「あなたは……!?」
ナッツハウス二階に入っていったダークドリームとのぞみは、悲鳴にも似たこまちの声に
出迎えられた。その場にいたかれんもうららもくるみも、彼女の姿に息を飲む。
事情を知らないシロップは「何だ?」とでも言いたそうな顔をしていた。
「えーと……お久しぶりです」
どう挨拶をしたものかダークドリームは少し迷ったが、結局ぺこりとお辞儀をした。
いえ……その、とかれんは戸惑ったように、
「どうしてあなたは……、あの時あなたはクリスタルに……どうして、今ここに?」
と尋ねる。くるみはダークドリームの分のお茶を淹れ、ココとナッツは店を片付けてこの部屋に
入ってきていた。
「良く分からないけど」
りんに勧められるままにダークドリームは椅子に座った。くるみが彼女の前にティーカップを置く。
「ずっと眠っていたみたいで、気がついたらクリスタルの中にいて……、
 だから、出てきちゃった」
「へえ……そうだったんだ」
ふんふんとのぞみは納得していたが、他のみんなは今ひとつ良く分からないとでも
言いたそうな顔つきをしていた。
「でもあなたは……」
消えたはずなのに。かれんはそう続けたかったが、こまちがそれを手で制した。
「今日はこちらに泊まっていく?」
こまちにそう聞かれ、あ、とダークドリームは呟いた。そういえばクリスタルから
出てきたはいいが、これからどうするかということは全然考えていなかった。とにかく
のぞみに会うことだけを考えていたのだ。
「ここに泊まっていけばいいんじゃないかな」
ココは困ったような表情のダークドリームににっこりと微笑んでみせた。
ついついダークドリームは顔を赤らめる。
「そうだな……くるみ、確か一部屋あっただろう。あそこはすぐに使えるようになっているよな?」
ナッツが確認するようにくるみに目をやると、「はい」とくるみは答える。
「じゃあまた明日だね、ダークドリーム!」
のぞみが軽く肩を叩いた。
「え? また明日って……みんなここに住んでるんじゃないの?」
「ううん、違うよ。ここに住んでるのはココたちで、
 私たちはそれぞれの家に住んでるんだよ」
「それぞれの家? そんなのがあるの?」
「うん」
「これからゆっくり覚えていけばいいわ、この世界のこと」
のぞみの言葉に戸惑っているダークドリームにこまちが安心させるように笑いかける。
――何かこの世界っていろいろ難しいんだなあ……
ダークドリームはこう思っていた。のぞみ達はしばらくしてからそれぞれの家へと帰宅し、
ダークドリームは自分用にあてがわれた部屋でぐっすりと深い眠りについた。

 * * *

「目玉焼きは焦がしすぎないミル! ちょうどいい焼き加減になったらすぐに火を
 止めるミル!」
――ったく、またかよ……
数日後の朝、起きたシロップは台所の方から聞こえてくるミルクの騒がしい声に
うんざりしながら頭を掻いた。
ここ数日、ダークドリームはミルクに家事の猛特訓を受けている。
ココ様ナッツ様にお出しする食事はお世話役が責任を持って準備するミル、というわけで
ダークドリームが作ったものを食べるのはダークドリーム本人とミルク、
それにシロップだ。
「……ま、まあ今日は昨日のよりはましミル!」
漏れ聞こえてくるミルクの言葉に不安を抱きながらも部屋に入っていくと……
やはり目玉焼きは黒焦げだった。昨日と同レベルだ。
「私、やっぱり料理できないのかなあ……」
机の向こうでダークドリームはがっくりと肩を落としている。
「そんなことで落ち込むなよ」
シロップが声をかけると、彼の存在に気づいたダークドリームが「おはよう」と
言葉を返した。
「のぞみに比べりゃ、まだマシだ」
「それは慰めになってないミル」
ぽんとミルクが変身してくるみの姿になった。

くるみとココは同じ時間にサンクルミエール学園へ登校する。大抵はシロップも
同じ頃に朝一番の仕事へと出かけて行くが、今日は午後からしか仕事が入っていないらしく
客のいないナッツハウスで所在なさげにぶらぶらとしていた。
ダークドリームはここ数日の習慣で部屋の掃除をしている。
「掃除終ったよ、ナッツ」
「あ、ああ」
売り上げと在庫を照らし合わせていたナッツが顔を上げた。ダークドリームは箒とちりとりを
しまっている。
「……ダークドリーム?」
「何?」
ナッツに呼ばれてダークドリームはレジのすぐ近くまで歩み寄った。
「学校に行くことも考えたらどうだ?」
「えっ?」
ダークドリームはきょとんとした表情だった。
「こっちの世界の色々な手続きについては良く知らないが、ココやミルクが
 学校に行ってるんだから何とかなるだろう。この店を手伝ってくれるのは
 ありがたいが、暇だろう」
「でも……」
「どうした?」
「……私、学校に行っちゃいけないような……」
「何でだ?」
ナッツの言葉は短いが、それでいてごまかせないような雰囲気がある。
「ええと」
ダークドリームは悩んだが、自分の気持ちを上手く言い表せる言葉は見つからなかった。
「分からないけど、でも」
「そうか」
本人にも分かっていないことが分かり、ナッツはそこで聞くのを止めた。
店の中に目をやり退屈そうにしているシロップを見つけると、
「シロップ、時間があるならダークドリームを乗せて町の案内でもしてやってくれないか」
「俺が? 今度の日曜にのぞみ達が案内するはずじゃ」
「空から見ておいたら頭に入りやすくていいだろう。少し外の空気も吸ってきたらいい」
――と、最後の言葉はダークドリームに向けてのものだった。
「でも、いいのシロップ?」
ダークドリームは遠慮がちに尋ねる。
「仕方ないロプ」
シロップは少し不満そうだったが、鳥の姿になった。


「わー! 高ーい!」
ダークドリームを乗せたシロップはまず急上昇した。ぐんぐん上っていくにつれて
小さくなっていく景色を見てダークドリームが感嘆の声を上げる。
「落ちないように気をつけるロプ」
「うん!」
元気よく答えて、それでも下の景色が見たくてダークドリームは首をうんと伸ばして
下を見た。ナッツハウスもその前の池も、すっかり小さくなってジオラマか何かのようだ。
「学校の方に行くロプ」
うん、とダークドリームが答える間もなくシロップはぐうんと速度をあげ空気を切った。
涼しい風がダークドリームの髪を揺らす。
「あれが学校ロプ……今、のぞみ達がいるはずロプ」
「うん! うんうん!」
初めて見る光景に興奮気味にダークドリームは相槌を打つ。
「あれがこまちの家ロプ。和菓子を売ってるロプ」
「……人一杯いるね」
和菓子屋小町の前には何人かの人が待っているのが見えた。
「あそこはいつも繁盛しているロプ」
「へえ……わっ、すごい家!」
「あれがかれんの家ロプ」
「えっ!? あれが!?」
「そうロプ」
口をあんぐりさせているダークドリームを乗せたままシロップは水無月邸の
屋根へと降下すると、そこで人の姿に戻りダークドリームを降ろす。ダークドリームは
不思議そうな顔をした。
「こんな所に降りていいの?」
「ああ、よく羽を休める時にこの場所を借りてるんだ。屋敷の持ち主にも許可はとってあるしな」
「ふうん」
そうなんだ、と呟きながらダークドリームは屋根の上にぺたりと体育座りした。
ここからもサンクルミエール学園は良く見える。
シロップは、仕事は終えたとばかりにごろりと屋根の上に寝転がった。
さんさんと注ぐ日の光がシロップの顔をまともに照らしている。

「――ねえ、シロップ」
シロップには目をやらず、学校の方を見たままダークドリームが話しかけた。
「ああ、」とシロップが生返事をする。

「私、このままでいいのかな……」
「うん?」
シロップにはダークドリームの言葉は半分くらいしか届いていなかった。
「私、ここにいていいのかなあ?」
「……何、言ってんだ」
ダークドリームの言葉が深刻な物であるのに気づいてよいしょとシロップは上体を起こした。
まさか、と頭を廻らせる。
「くるみにいじめられてんのか!?」
「ううん、違うよ。そんなんじゃなくて……」
「じゃあ何なんだ?」
シロップは食い下がる。んっと、とダークドリームは考えた。
「のぞみはもちろんだけど、プリキュアのみんなもくるみもココもナッツも
 シロップもものすごく優しいじゃない? だから何か……いちゃいけないような……」
「良くわかんないな」
シロップはダークドリームの言葉に困惑して難しい顔をした。
「学校に行きたくないのも、それなのか?」
「う……うん」
「分からないなあ」
「ごめん、シロップ。変なこと言っちゃって」
「別に……」
シロップはまた寝転がろうとしたものの途中でやめ、目を凝らして
少し離れた広場にある時計を見た。
「ちょっと早いけど、行ってみるか」
「どこに?」
「仕事の依頼人の所。一緒に来るか?」
「う、うん」
鳥の姿になったシロップの背中にダークドリームは再びしがみついた。

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