ポンプを足で踏みながら風船の中にガスを送り込むと、真っ赤な風船はぱんぱんに
膨らみました。
ベローネ学院の校庭の真ん中で、ほのかは大きくなった風船の口をきっちりと
閉じます。手で押さえていないとすぐにも飛んで言ってしまいそうです。
風船についている紐の先にカードがあることをチェックして、手を離します。
高く上った風船はやがて風に吹き流されていきました。
ほのかの隣では、同じ科学部のユリコがダンボールの箱の上に置いた風向き計を見ながら
風の向きを記録しています。
風船はゆっくりとベローネ学院の校庭から空に飛んで行きました。

 * * *

夕凪町にあるトネリコの森、その奥にある大空の樹は、咲や舞、満や薫の
お気に入りのスポットになっています。
舞は大空の樹の根っこに腰掛けて静かにスケッチをしていました。
空はどこか霞がかって見えます。舞が描いている景色もどこかぼんやりとした
夢の中のような光景でした。

「せーのっ! これでも駄目?」
「駄目ね。ここで多少何しても木の上には伝わらないわ」
スケッチが一段落ついた舞にそんな声が聞こえてきました。今まですっかり集中していたので気がつきませんでしたが、咲と満、薫は大空の樹の周りに集まって
上空を見上げて騒いでいました。

「みんなどうしたの?」
「あそこに風船が引っかかっちゃってて」
咲が背中を逸らして空の上を指差しました。真っ赤な風船が大空の樹に
引っ掛かっていました。
「それで揺らしてたの?」
「うん、でもここで揺らしてても梢の方は動かないみたい」
それも当然でした。大空の樹は、子どもが2、3人集まって手を繋いでも
その木の幹を一周できないかもしれないくらい大きな木です。
咲たちがここで押したり引いたりしても、びくともするはずはありませんでした。

「仕方ないわね。私が行くわ」
薫が手に持っていた通学鞄を地面の上に置きます。
「誰か来たら適当にごまかしておいて」
そう言い残すと、薫はふわりと静かに宙に浮かび上がりました。
かつて滅びの国ダークフォールの戦士として産み出された満と薫には
まだ不思議な力がいくつも残っていました。空を飛べるのもそのうちの一つでした。

咲と舞、満が見上げているうちに薫はすうっと大空の樹の一番上の枝までたどり着き、
枝に絡まった紐を外そうとします。初め、薫は切ってしまおうかと思いました。
それが一番早そうでしたが、しかし、紐の先にカードのようなものがついているのが
見えました。

――これは外さない方がいいのかしら。
薫はそう思い、紐を切らずに枝から外してみようと試みます。
紐それ自体がかなり複雑に絡みついているのに加えて枝についている刺状の突起が
邪魔をして、中々紐は外れてきませんでした。

「何やってるのよ、薫は……」
地上では満が苛々していました。大空の樹はこの辺りで一番大きな木で、その梢の
近くには視界を遮るようなものは何もありません。
薫は「誰か来たら適当にごまかしておいて」と言っていましたが、
ごまかすのはかなり難しそうな状況です。
「私も行って来るわ」
満はばんと地面を蹴るとひゅっと飛び立ちすぐに薫のところに行きました。
「何してるのよ、薫。さっさと」
そう言って満は掌に宿した滅びの力を糸に当ててしまおうとしました。
「待って、切りたくないから」
と薫が止めます。
「だったらさっさと外しなさいよ」
「持ってて」
と薫は満に、風船に繋がった部分の糸を持たせます。両手を使うと、先程よりも
ずっと楽に薫は枝と糸の絡みつきをほどくことができました。
枝から完全に風船が離れてしまうと、満と薫はそのまま地面に降りました。

「お帰りー、満、薫」
「お帰りなさい」
下では咲たちが、誰も来なかったことに安堵しながら二人を出迎えました。
「これって手紙なのかしら……何かついているみたい」
薫は満に風船を持たせたまま、糸の終端についているカードを手にします。
風船にはこのカードのほかにも小さな紙袋がいくつかついていました。
「手紙?」
咲も舞も薫の手の中を覗き込みました。糸から外さないままでカードを開くと、
細いマジックでメッセージが書いてあります。

『風向と風速の調査をしています。
 もしこの風船を拾われた方がいたら、是非お知らせください。
 風船がまだ膨らんでいるのに木などに引っ掛かっているのを見つけたときには、
 そのまま飛ばしてくださるようお願いいたします。
 風船についている封筒には花の種が入っています。
 よろしかったら是非お受け取り下さい。

 ベローネ学院中等部 科学部』
一番下には学校の住所と電話番号が書いてあります。

「へえ、風船でそんな調査ができるんだね」
「……って咲! これ、ほのかさんじゃない? ベローネ学院の科学部って……」
舞が一番下の文字を読んでいて気がつきました。

「ええっ!? これほのかさん?」
咲はカードを裏返して見ましたが、個人の名前は特に書いてありませんでした。
「ほのかさんって確か科学部って言ってたわよね、薫?」
満が確認するように薫を見上げると、薫は無言で頷きます。
「そっかあ、じゃあこれ飛ばしたのほのかさんなんだ。こっちに飛んでくるなんて
 すごい偶然だね。えっと、これは貰っちゃって風船は飛ばして、後でほのかさんに
 連絡すればいいのかな?」
咲は小さな封筒を一つ外しました。振ってみるとからからと音がします。
種がいくつか入っているようでした。

「……あ、ねえねえ!」
いいこと思いついたというように咲が三人の顔を見回します。
「種貰う代わりに何か別のものつけようよ。何か軽くて、次に見つけた人が
 楽しんでくれそうなもの」
「咲、それいいアイディアね」
「だったら舞が絵を描けばいいんじゃない? このくらいのカードに……」
舞と薫の発言はほぼ同時でした。
「あ、薫それいい! そうしようよ!」
「どうせだったら裏側にPANPAKAパンの名前も書いておいたら?」
満がさらっと言葉を添えます。
「もしかして、風船を見た人が来たりしたら面白いじゃない」
咲たちは風船を一度家に持って返って、また空に飛ばしました。
風船はゆっくりとPANPAKAパンの庭から空に飛んで行きました。

 * * *

昼間は生徒達でごった返しているサンクルミエール学園も、下校の時間直前になると
ほとんど人の姿がなくなります。
日直と、仕事で授業を休んだ分のレポート提出でうららはすっかり帰るのが
遅くなってしまいました。
うららが校舎から出ると、一人の少年がうららに近づいて来ました。

「遅くなったんだな」
「シロップ」
甘井シローことシロップはおタカさんのところをよく手伝っています。
一緒に帰ろう、と言うまでもなく二人は並んで歩き始めました。
西の空はもう真っ赤に染まっています。風ももう、だいぶ冷たくなっていました。

「……シロップ、あれ」
うららが何かに気がついたかのように指をさします。その指の先には
サンクルミエール学園の校舎が、さらにその屋根の上には赤い風船が引っ掛かっています。
「風船だな」
シロップはちらりと風船を見るうららの顔を見ました。そしてふっと息をつくと、
すっとうららの傍を離れ大きな鳥の姿となって校舎の屋根に向います。
風船はすぐに外れました。シロップは風船を持って人間の姿になり降り立つと、
うららにそれを渡しました。
「ありがと、シロップ」
「何か手紙がついてるみたいだ」
シロップは運び屋を本業としているだけに手紙にはすぐに気がつくのでした。

「手紙?」
うららは風船の下についているカードに気づいてそれを見てみます。
カードは二枚、ほのかのものと咲たちのものでした。
うららは風船をすぐには飛ばさずにナッツハウスに持っていくことにしました。


「へえ〜、ほのかさんが……ふむふむ」
ナッツハウスにはのぞみを初めとするいつものメンバーが揃っていました。
「ほのかさんが科学部でこういうことするのは分かるけど、
 何で咲たちのカードも一緒についているのかしら?」
とくるみは不思議そうです。
「夕凪町から飛ばしたんでしょうか?」
「夕凪町ってそういう調査に適した場所なのかしらね」
「えー、これってほのかさんが飛ばした風船を咲ちゃんたちが拾ってまた飛ばしたって
 ことなんじゃないの?」
くるみとうららの会話にのぞみの声が割って入ります。

「素直に読めばそうだけど、そんな偶然ある? ほのかさんが飛ばした風船が
 たまたま咲たちのところに落ちて、今度はそれがたまたまこっちに来るなんて」
りんがのぞみに聞き返します。

「偶然……ほら、プリキュアパワーみたいなもので!」
のぞみがそう言いますが、
「偶然任せでなかったら、風向と風力の調査にならないわよ」
とかれんが指摘しました。
「あっ、そうか……」
そう答えながらのぞみは封筒を取ります。花の種が中に入っていそうでした。

「私たちも何かカードつけて飛ばしませんか? ナッツハウスに是非どうぞって」
うららが一同を見渡すと、りんもくるみも、のぞみもかれんも賛成しました。
こまちも、もちろん賛成でした。更に別のアイディアまでありました。

「こんなのどうかしら? カードの上に細かい字で推理小説を書いておくの」
え、とみんなが驚いてこまちを見ます。こまちは楽しそうに続けました。
「クライマックス、犯人は○○さんです――というところの直前で止めて、
 『続きはナッツハウスで!』ってするの。気になった人が来てくれると思うわ」
「あの、こまちさんそれって……」
りんが頭を抱えながら指摘します。

「カードの上に小っちゃい字で死んだとか殺したとかそんなことが書いてあって、
 しかも最後まで読んでも犯人は分からない、ってことですよね」
「そうよ、りんさん」
「あの、何かそれ呪いの手紙っぽくないですか……?」
「そうかしら」
「そうよ、こまち」
りんと同じことを考えていたかれんがここぞとばかりにりんに加勢しました。
「普通のメッセージカードの方がいいわよ」

小さなメッセージカードを用意し、六人で分担して文章を書くと
のぞみ達は風船を飛ばしました。
風船はゆっくりとナッツハウスの前から空に飛んで行きました。

 * * *

「美希たんブッキー! 朝早く呼び出しちゃってごめんね!」
のぞみ達が風船を飛ばした翌朝早く、ラブと美希、祈里はいつもダンスの練習をする
公園に集まっていました。

「そんなのいいって。それより」
「せつなちゃんから手紙届いたんでしょう?」
四つ葉町の四人目のプリキュアにして三人の友達、せつなはメビウス消滅後の
ラビリンスを復興するために故郷に帰っていました。
せつなからはたまに手紙が届きます。
届けてくれるのは手乗りサイズのホホエミーナです。
ホホエミーナはせつなの手紙を届けて、ラブ達からせつなへの返事を
持って帰って行ってくれるのでした。

「うん、今回は写真も入ってた!」
じゃーん、とでも言い出しそうにラブがポケットから封筒を取り出します。
封筒は分厚く、中には便箋と写真が5枚入っていました。
「せつな、これはあの女の子と……?」
「こっちもあの時の子と一緒に写ってる」
せつなの写真はどれもラビリンスでラブたちが会った女の子達と一緒に写っていました。
「それは手紙読むと理由分かるよ」
一足先に手紙を読んでいるラブは少し得意気です。

「ラブ、もったいぶらないで早く読んでよ」
「ね、ラブちゃん早く」
美希と祈里に口々に言われて、ラブは便箋を開くとゆっくりと読み始めました。

『ラブ、美希、祈里
 元気ですか? ラビリンスの復興も少しずつ形になってきました。……
 私は今、小さな子どもたちの先生的な仕事をしています。ラブたちや四つ葉町の
 みんなに教えてもらったことをどうやって子どもたちに伝えていくか
 考えながら進めています。この前、調理実習の時にはドーナツも作ってみたのよ。
 やっぱり大好評でした。……
 これからも、精一杯頑張るわ!!

 東せつな』

「そっかあ」
ラブが手紙を読み終えると、美希が納得したように段の上に腰を下ろしました。
「じゃあこの写真は学校の風景なのね」
「多分ね。大人の人もいるけど、せつなの手伝いか何かなんじゃないかなあ」

「でもせつなちゃん、先生って言ってるけど文部大臣も兼任みたいなものよね」
「そうね、実質せつなが教育方針とか決めるんだろうし……」
美希と祈里の話を聞きながらラブは、
――せつな、大変だよね……
と思っていました。大変ですが、それがせつなにしかできないことだというのも
ラブには良く分かっていました。

「何かせつなの為にできることないかな」
言葉が口から漏れ出します。美希も祈里も頷いていました。


ラブたちがいる場所のすぐ近くではカオルちゃんが出店の準備をしていました。
タルトがいなくなってカオルちゃんの店も少しお客さんが減ってしまいましたが、
本人はあまり気にしていないようでした。
「お?」
すぐ近くを赤い風船が飛んでいるのを見るとカオルちゃんは自分の店の前に出て
「よっ」と大きくジャンプをしてそれを捕まえました。
「あ、カオルちゃん風船取ってる」
美希がそれに気づきます。カオルちゃんは風船についているカードを調べた後、
ラブたちのところに風船を持ってきました。

「それ、カオルちゃんの?」
「い〜や。花の種だってさ」
カオルちゃんは美希に首を振ってから風船をはいとラブに渡します。
「え? 私に?」
「そうそう、風が運んできたプレゼント……な〜んちゃってね、ぐはっ!」
冗談めかした言葉に笑いながらラブは風船を受け取ってメッセージカードを読みます。
「え。……ほのかさんと咲たちとのぞみたち?」
どうもカードを送ってきたのが知り合いらしくてラブは驚きました。
「なんだ、友達かい?」
「カオルちゃん、これカオルちゃんが誰かから頼まれて私に持ってきたの?」
「い〜や。おじさんはあそこに飛んできたのを捕まえただけだよ」
いつもは冗談ばかりのカオルちゃんですが、この時ばかりは本当のことを言っていました。

「じゃあ、これ偶然かなあ……」
ラブはそう呟きながら封筒を一つ取ります。花の種の音がしました。
「あ、そうだ! ねえ美希たんブッキー。せつなに花の種送るのってどう?
 学校には花壇だってあった方がいいし、ほら、軽いからホホエミーナだって
 ちゃんと持てるし!」
「あ、それいいかも」
「賛成。お花屋さんが開いたらみんなで買いに行かない?」
小さなことですが、せつなの為にできることを思いついたのでラブは少し
視界が開けたような気がしていました。

「そうだ、こっちにもカードつけて飛ばそっ! 幸せゲットできますように、って感じで!」
「じゃあ、カオルちゃんの幸せのドーナツゲットだよって書いておいたら?
 みんなお店のこと書いてるし」
「お、おじさんのこと書いてくれるの? 嬉しいねえ、ぐはっ!」
美希の言葉にカオルちゃんはまた冗談めかして答えました。
メッセージを記入したカードをつけると、ラブたちは風船を飛ばしました。
風船はゆっくりと四つ葉町の公園から空に飛んで行きました。

 * * *

花咲つぼみがその風船を拾ったのは校庭の花壇でした。
真っ赤な風船はしぼんで花壇の中に落ちていました。
今回の風船の旅はここまででした。

――風船ですね……。
ここにあってもゴミになるだけです。つぼみは風船を拾い上げて、カードが
ついていることに気がつきました。
ほのかからの最初のカードと、咲たちからのカード、のぞみたちからのカード、
ラブたちからのカード。外れないで全部残っていました。
一つだけ残っていた、種の入った封筒も。

つぼみはカードを全部読んで事情を理解しました。
――なんだか、どのカードも楽しそうですね。
カードはどれも楽しそうな字で書かれていて、見ているだけで楽しくなります。
――とは言っても……。
この風船の目的を思うなら、ベローネ学院の科学部の人に電話か手紙で知らせるべきです。
知らない人に電話か手紙。つぼみは緊張のあまりきゅっと胸が痛くなるような気がしました。

「つぼみ、何してるのー?」
花壇の前で固まっていたつぼみの背後から突然大きな声がします。
後ろにいたのはクラスメイトのえりかでした。
こういうことで、とつぼみが事情を説明すると、
「なんだ。じゃあ要するにそのベローネ学院に電話すればいいんでしょ?」
とえりかは事も無げに答えます。
「で、でも知らない人に……」
「知らない人ったって、向こうから頼まれて電話するんだし。あっちで電話かけられるから」
えりかはつぼみの腕を取るとそのまま引っ張っていきます。
「ああ、ちょっと待って〜!」
覚悟の決まらないままつぼみはずるずると引っ張られていきました。

 * * *

「面白い結果が出たわよ」
タコカフェの机の上にほのかが大きな地図を広げています。
なぎさたちが住む若葉台を含む、この辺りの数県が描かれた地図でした。
「どんな結果なんですか?」
なぎさたちのほかにタコカフェのお客さんはいません。手伝いをしているひかりも
ほのかたちのテーブルに座りました。
なぎさは地図を汚さないように気をつけながらたこ焼きを食べていました。

「風船をここから飛ばして」
とほのかがベローネ学院に印をつけます。
「咲さんたちが見つけたのがここ」
「え? 咲って、あの咲? キュアブルームの?」
なぎさが不思議そうな顔をしました。
「そうなのよ」とほのかが意味ありげになぎさとひかりを見て笑います。
「へえ、偶然もあるもんだね」
ほのかは夕凪町のトネリコの森に印をつけました。

「次に、のぞみさんたちが見つけたのがサンクルミエール学園」
「え? のぞみって、キュアドリームののぞみ?」
「そう。第一発見者はうららさんですって」
「え、でもそれすごくない? プリキュアばっかりが拾ってくれるなんて」
ほのかはなぎさのその言葉には答えずに更に続けました。

「次に、ラブさんたちが四つ葉町の公園で見つけてくれたらしいわ」
「えーっ!? ラブってラブでしょ!? できすぎだよ!」
ほのかが地図の上につけた印は四つ。なぎさもひかりも、信じられないという
顔をしていた。

「どうしてそんなにプリキュアのところに行くんでしょうか?」
「ほのか、何かプリキュア探査装置とかつけた?」
「そんなものつけてないわよ。あくまで風の調査だもの」
「じゃあ、舞と薫が何かしたとか……」
「舞さんと薫さん? どうして?」
「二人とも風の力が使えるはずだし、ほのかをびっくりさせるために……とか」
ほのかは苦笑しながら、
「どっちかと言うとそういうことをしそうにないタイプだと思うわ」
と答えます。
「でも、こんなにプリキュアの知り合いばっかりのところに行くのってどう考えても
 おかしくない?」
「何か、プリキュア同士で引きつけあう力でも働いたんでしょうか?」
ひかりの言葉に、おっとなぎさが興味を持ちます。
「そんな力ってあるの?」
「……分かりません」
ひかりは小声で答えました。

「でもなぎさ。最後の花咲さんって人はプリキュアの関係者じゃないわよ」
「あ、そういう人も拾ってくれたんだ」
「ええ。風船もしぼんでたって多分言ってたから本当に最後だと思うわ」
「ほのか、『多分』って何?」
「電話が大分遠くて、良く聞き取れない部分があったの。あんまり聞き返すのも悪いし……」
とほのかは困ったように笑みを浮かべました。
「でも場所はきちんと聞いたわ。ここよ」
とほのかは最後の印をつけました。五つの印は緩やかなカーブを描きながら
並んでいました。
「そういう人も拾ったってことは、プリキュアの力じゃなくて
 本当にただの偶然なのかなあ……」
なぎさがぶつぶつ言っている横でほのかは大きく矢印を描きます。
五つの印をつなぐ矢印でした。

「それで、今回の結果から大体今はこういう風が吹いているってことが分かったの」
「へえ……」
なぎさは地図を見てからほのかを見上げます。
「それってつまり、どういうこと?」
「この辺りの地域は、冬から春に移り変わる時期にこの方向の季節風が吹くことが
 知られているわ。その風がもう吹き始めているということね」
「……つまり、もうすぐ春になるってことでしょうか?」
ひかりが控えめに尋ねます。ほのかはにっこり笑いました。

「そうよ。だんだん春が近づいて来てるってこと」
一陣の風が吹いてきました。その冷たさになぎさは思わず首をすくませましたが、
種が芽を出す春はすぐそこまで来ていました。

-完-

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