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のぞみたち六人に割り当てられた部屋は広い。
「わ〜!」
歓声を上げてのぞみがベッドに倒れこんでぴょんぴょんと跳ねる。
すぐに立ち上がり窓に駆け寄ると外の景色を眺めた。
日の沈んだ現在は窓の下に黒々と森が広がっているように見える。
「なんか、キャンプ場か何かに来たみたいですね」
のぞみの隣にうららが並んで同じように外を見る。
「ね〜。壷の中だなんて信じられないよね」
「遠景は全部絵だそうよ」
くるみの言葉にのぞみは「えんけい?」と問い返す。
「遠くの景色よ。ほら、あの辺の山とか」
くるみが指差す。確かに遠くの方に山のシルエットが見える。
「全部絵なんだってフィーリア王女が言ってたわ。作るのが大変だから」
「絵!?」
のぞみは窓に顔を張り付けんばかりにした。
「あれ絵なの〜!?」
「舞台装置みたいですね……」
うららは興味津々といった様子だ。
「フィーリア王女って舞さんみたいに絵がとっても上手なのね!」
「いや、多分そういうことじゃないですから」
「そういえばくるみ、気になっていたんだけど……」
かれんが窓の少し後ろからくるみに声をかけた。
「街の人たちがみんな似たような服を着てるのはどうして? 
 前は気にならなかったけれど、記憶が戻ってから気になるようになって」
「ああ、それもこの世界をつくる時の事情ね。省略できるところは省略したそうよ」
「じゃあ、この家にいくつか開かないドアがあったり細かく見ていくといろいろ不便なのも……?」
「そういうことなんじゃないかしら」
「世界つくるって大変なんだね〜」
のぞみが感心したように呟く。かれんはどさりとベッドの上に腰を下ろした。
――運命、ね……。
ここに五人でいるのは運命かもしれない。けれどもそれは自分たちが作ってきた
運命だとかれんは思った。


「プリキュアとダンスだったんだよね、私たちがいつもしてたこと」
ラブと美希、祈里が割り当てられた部屋は咲たちと同じ四人部屋だ。
「すっかり忘れてたよね〜なんでだろ」
美希が苦笑する。
「帰ったら早速ミユキさんにレッスンしてもらわないとね」
祈里の言葉にラブが「あっ!」と大きな声を上げる。
「そうだ、私たちずーっとダンスの練習してないよ?
 ミユキさんに会うまでに練習しておかなくちゃ!」
「そうね、今ここで練習してもいいかも」
美希が立ち上がる。二段ベッドの奥に二人くらいなら踊れそうなスペースがあるのを見て取ると、
「一人が歌ったり手拍子でリズム取ったりして、残りの二人がここでダンスすれば
 いいんじゃない?」
「さっすが美希たん!」
ラブと祈里が立ち上がった。三人は息を合わせて「じゃ〜んけん」と構える。
「ぽん!」
美希が「勝ち! あたし完璧!」という言葉と共に一抜け。
次のじゃんけんの結果、最初にリズムをとるのはラブになった。
「美希たんブッキー、準備いい?」
祈里と美希が「いいよ」と答えるのを聞いてラブは手拍子を打ち、
「You make me happy〜」
とトリニティのダンス曲を歌い始めた。



ほのかの手を握っていたなぎさの手がぴくりと動く。ずっとこうしていたいのは
山々だったが、キュアブラックとして戦ううちに研ぎ澄まされたなぎさの勘が
危険を告げていた。それはキュアホワイト――ほのかも同じことだ。
いや、この邸宅内にいる少女たちみんなが同じだった。窓の外では雨が降り始めている。窓に突き刺さるように降る雨と共に邪悪なものがこちらに近づいて来ている。

「そんなに長く休ませてはくれないようね」
窓の外を見ながら満が呟いた。その表情は既に戦士としてのそれだ。
薫に向かって頷くと二人の姿が灰色の戦闘服に包まれていく。
「デュアルオーロラウエーブ!」
「デュアルスピリチュアルパワー!」
「プリキュア・メタモルフォーゼ!」
「スカイローズ・トランスレート!」
「チェーンジ、プリキュア! ビートアップ!」
少女たちが変身を終えるのを見計らったかのように呼び鈴がなった。
「え? お客さん?」
アクアがきょとんとした表情を浮かべる。
各部屋とも、このタイミングのよい呼び鈴に日常に引き戻される。
「かれんさん、お客さん待ってますよ。出ないと」
ドリームがアクアをせかす。
「出るって……この格好で!?」
「仮装好きの中学生ってことで押し切りましょう!」
「ちょ、ちょっと!」
ドリームがアクアの背中をぐいぐいと押して玄関まで押し出す。諦めたようにアクアは
「どちら様ですか?」
と戸を開ける。
「夜分遅く申し訳ない」と声がした。他のプリキュアたちも玄関の近くまで来て
息を殺して訪問客を待っている。
「手土産を持ってきた」
入ってきた男の姿を見てあっとブライトが声をあげた。
「あんたは! キントレスキー!」
「久しぶりだなプリキュア。いや、プリキュアその他」
キントレスキーは目深に被っていたフードを脱ぐ。髭を長く伸ばしたその顔は
まごうことなきキントレスキーのものだ。
彼の手にあるお歳暮を思わせる箱からぽんと煙が立った。

「フルコースの手土産だ、プリキュアその他。ウオーミングアップをすませるがいい!」
箱から巨大化したフォークやナイフがウザイナーとなって出現する。
ちゃん! と金属音が鳴ったかと思うとスープスプーンウザイナーが身を翻しベリーをその上に載せた。
「ベリーッ!」
ドリームが手を伸ばすが届かない。ベリーの身体は天井に叩きつけられ蛍光灯を割り、
玄関が一瞬にして闇に包まれた。
「光よ!」
ブライトの声と共に薄明かりが灯る。落下したベリーはブラックが下敷きになって
守っていた。ブラックはそのままベリーを抱いて奥へ下がる。
スープスプーンウザイナーは跳びあがるとその後を追う。
「ウザイナーッ!」
「プリキュアパンチ!」
バターナイフウザイナーの突進をパインがパンチで止めると玄関に飾ってあった絵の額が
がちゃんと音を立てて割れる。薫が回し蹴りにより仕留めようとするとパインが隣に並び、
「プリキュア回し蹴り!」と薫とダブルの攻撃でウザイナーは消滅した。
「みんな、出ましょう! ここは狭すぎるわ!」

ホワイトの言葉で皆、外に出ようとするが二体のフォークウザイナーが玄関前で
十字になってプリキュアを阻む。アクアは、
「もういいわよ! 多少家が壊れても止むを得ないわ!」
と叫ぶと水の矢をつがえる。
「風よ!」とウィンディが背後から風を送り放たれた矢は風に乗って二手に別れ
フォークウザイナーを直撃する。水煙とともにウザイナーが消えると煙の中から
ナイフウザイナーが飛び出しアクアの胴を横に払おうとするが満が咄嗟に手刀により
ナイフを下に叩きつける。なおもナイフウザイナーが浮かび上がってくる。
「満さん!」
ホワイトの声に合わせて満が下から蹴り上げると、跳びあがったホワイトが背中に
乗せて投げ飛ばし、「ファイヤーストライク!」と、りんがとどめの一撃を打ち込む。
ブラックとベリーを追って家の奥に入り込んだスープスプーンウザイナーは
逆にプリキュアたちに囲まれていた。

「プリキュアキーック!」とピーチが襲い掛かるもウザイナーはきんと回転して
跳ね飛ばすが、プリズムチェーンに捕縛されたところに「シューティングスター!」
とドリームがとどめを刺す。
「キントレスキーは外よ!」ローズとミントが玄関の戸をぶち破るようにして外に出ると、
待ち構えていたフィッシュナイフウザイナーが二人の頭上からのしかかり押し潰さんとする。
「エメラルドソーサー!」
ミントがそれを弾き返すとローズがソーサーの上に飛び乗りフィッシュナイフウザイナーを拳をもって叩き潰した。ローズがあたりを見回すと、遠景の山々の輪郭が溶け始めていた。
水性の塗料を使っているのかしら、とローズは思った。


「準備はできたようだな、プリキュアその他」
一同が家の中から外に走り出る。キントレスキーは木の枝の上からそれを待っていた。
滝のように降りしきる雨が一同の身体を濡らす。キントレスキー自身の身体にも
幾筋もの雨が流れ、金色の身体を闇夜に輝かせている。
――ミズ・シタターレは……?
満と薫はキントレスキーを睨みながらも彼女のことが気になっていた。
この雨には彼女の力が関与しているだろう。しかしその気配はどこからも漂ってこない。
「どうやら私の満足の行く戦いができそうだ……」
プリキュアたちの見守る中キントレスキーの身体が膨れ上がり筋肉が盛り上がっていく。

    * *

「見〜つけた」
時計の郷に似つかわしくない声が響く。黒い服を着た短髪細身の男の姿がひかりとココ、
ポルンとルルンの前に現れる。ココは人の姿から本来の姿に戻った。
男の服に刻まれた紺色の文様は彼がラビリンスに所属することを表していた。
「やっと見つけたよ。プリキュア」
にやにやとした笑みを浮かべて男がひかりたちに近づく。
ひかりは壷を抱えたまま立ち上がると一歩下がる。
「せっかく邪魔なプリキュアがいないんだ。このチャンスに叩き潰しておかなくちゃね」
「あなた……まさか今回のことはあなたが全て!?」
「よく気づいたなあ」
男は嬉しそうに笑った。
「いいアイディアだろ? ラビリンスが収集したデータを元に強い力を持つ存在を
 復活させる。手始めにプリキュアで試したんだけど、
 これなら僕がメビウスにとって代わるのも意外と簡単そうだ。
 まあでもその前に邪魔なプリキュアを始末しておきたくてね」
壷を抱えるひかりの腕にぎゅっと力がこもる。
「お嬢さん、」
面白そうに彼は笑った。
「君じゃ無理だぜ。君とその小動物たちじゃねえ。大人しく渡してくれればいいんだよ。
 僕だって気味みたいな女の子相手に手荒な真似はしたくないや」
「絶対に渡しません!」
ひかりが叫ぶように答える。
「みなさんが戻ってくるまで、必ずこれは守り通します!
 ルミナス・シャイニング・ストリーム!!」
「おっ」
男はいまだ余裕の体でルミナスが変身を終えるのを待つ。
「シャイニールミナス、その勇気は買うけど……」
ルミナスの姿を確認して男は苦笑した。
「クイーンと完全分離を果たした君は基本的にキュアブラックとキュアホワイトの
 サポート役だ。僕、このコーザが調べていないとでも思ったのかい?
 君たちの力ではそれを守ることなんてできないさ」
「そんなことないココ!」
ひかりの足元でココが叫ぶ。
「絶対にプリキュアのことは守るココ!」
「おやパルミエ国王! プリキュアにずっと頼り、守られっぱなしだった
 あなたがどうやって?」
「こうするココ!」
ココはさっと構えるとくるりと後ろを向いて
「ルミナスあっちココ!」と走り始める。
「逃げるんじゃないか結局!」
思わず男は叫ぶが、「まあいいさ。追いかけっこだ」とすぐに気を取り直す。
ゆっくりとコーザの身体は宙に浮かんだ。
「そらそらそら! いつまで避けられる!?」
男の両手から放つ爆撃からルミナスとココは必死に走って逃れる。


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