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「あ」
その頃、キュアブラックの口からは気の抜けたような声が漏れ出していた。
ブラックだけではない、ホワイトもピーチもベリーも、網の中のドリームたちも
気の抜けた声を思わず漏らしていた。
世界が今までと全然違って見える。頭の中にかかっていた靄がなくなるかのように――。
「あ? なんだ、これで終りかいプリキュア? チャチャ!」
プリキュアたちの動きが一瞬止まったのを諦めたと勘違いしたモエルンバが勝ち誇る。
だが事態は逆だった。

「……誰が諦めるって? いくよホワイト! ブラック・サンダー!」
「ええ、ブラック! ホワイト・サンダー!」
声の張りがこれまでと全然違うのは聞いているローズにも分かった。
「これが本物よ! プリキュア・マーブルスクリュー!!」
「お、おい何があったんだ!?」
突然様子の変わったプリキュアにカレハーンは驚くがそのまま突撃してくる。
白と黒の光線の渦に巻き込まれるようにして彼の姿は描き消えた。

「ブラック! ……私たちもこんなとこに捕まえられてる場合じゃないよ!」
「まかせてドリーム!」
網の中でルージュが立ち上がる。
「プリキュア・ファイヤーストライク!」
ルージュの放つ炎の玉は四散したかと思うとドロドロンの網を焼き尽くし五人は
その隙に網の中から地上に降りる。
「うわっ、撤退!」
すぐに地中に逃れたドロドロンを、
「プリキュア・エメラルドソーサー!」
ミントのエメラルドソーサーが追う。ソーサーはチェーンソーを大地に突き刺したかの
ように土を堀りあげ、地中に隠れていたドロドロンの姿をその皿の上にあげて回した。
「大地荒らすのはんたーい!」
ドロドロンの声には耳を貸さずにアクアが弓を構える。
「プリキュア・サファイアアロー!」
矢の連射によりドロドロンの姿はかき消えた。
「おいおい、どうしたんだよセニョール」
「あなたの相手は私たちよっ!」
カレハーンとドロドロンの敗北に驚いたモエルンバにピーチとベリー、パインがせまる。
「望むところだぜセニョリータ! チャチャ!」
モエルンバはダンスするかのように腰を動かし、炎の渦が左右からピーチたちに迫る。
「はっ!」
ピーチたちは三方向に分かれると、
「あなたのダンスはうまいけど!」
「私たちは三人で協力して踊れるわっ!」
悪いの悪いの飛んでいけ――ピーチたち三人の必殺技がモエルンバの姿もまたかき消した。

「みんな、思い出したの!?」
ローズが叫ぶと、その場にいた全員が頷いた。
「……薫さん」
アクアが呟く。え? とルージュが聞き返すと、
「早く、薫さんのこと何とかしなくちゃ! 私、ひどい勘違いを……」
「……あの状況でかれんさんの言ってたことは正論だったと思いますけど」
ルージュが取り成すが、「とにかく!」とアクアはローズを向いた。
「全員が思い出せば助けられるんでしょう!?」
「そうよ、あとは咲と舞」
「みんな!」
上空からの声に皆がそちらを向くと、ブライトとウィンディに変身した咲と舞が飛んできて
家のそばに降り立つ。
「皆、私たち思い出して……って、ひょっとして皆も!?」
「うん、みんな思い出したみたいだよ!」
ドリームが答える。ブライトとウィンディはほっとした表情を浮かべた。
「じゃあ薫さんたちを助けられるのね!」
ウィンディにローズがええ、と頷く。
「ねえ、ところで私たちなんでこんな状況になってるの? 確かすごく強い敵と戦ってた
 はずだと思うんだけど? ていうかそもそも、ここはどこ?」
ブラックがローズに尋ねた。実際、記憶が飛んでいた理由も良く分からなければ
この世界――気づいてみれば明らかに、自分たちが住んでいた世界とは違う――に
いる理由も分からない。

「薫のいる洞窟に行きながら説明するから聞いていて。何があったかというと……」
プリキュア達はローズの話を聞きながら洞窟に向った。

    * *

「私たちはみなとみらいのフュージョンとの戦いで初めて互いの存在を知ったわよね。
 その後も折々には連絡を取って……。四つ葉町のピーチたちはラビリンスと対峙して
 いるから毎週のようにナケワメーケ退治をしているけれど、他のみんなは日々を
 静かに暮らしていたはずよ。
 でも、フュージョン戦から一ヶ月ほどたったあの日、
 突然敵が出てきたからみんな変身して戦うことになったわ」
「そうだ、思い出した! カブキマンとか、倒したはずの敵が突然出てきたんだ!」
「ブラック、あの人カブキマンって名前じゃないと思うな」
ローズの言葉を聞きながらブラックとホワイトが言葉を交わす。
「そう。サンクルミエール学園のそばにも以前倒したはずの敵が出てきたわ。夕凪町にも、
 そうでしょ?」
「う、うん。それで私たち、満と薫と一緒に戦ったんだよ」
記憶が戻ったとはいえその辺りの――「この世界」に来ることになった直接のきっかけと
なったできごとについての記憶はどこかあやふやだ。
ローズの言葉を聞きながらみんなは自分の記憶を確かめる。
「でも、出てきた敵は前に倒したはずなのに妙に強かった。そうでしょ」

ローズの言葉に咲となぎさ、のぞみが「うんうん!」と頷く。
「何とか倒していったけど、元々ダークフォールにいたはずの……カレハーン、
 モエルンバ、ドロドロン、ミズ・シタターレ、キントレスキーは特に強くなっていて」
「そうだ!」
ブライトが思い出したように叫ぶ。
「それで、私たちが手こずってたらみんなが助けにきてくれたんだ!」
「ええ、そうよ」
ローズは走りながら目を閉じた。あの日は太陽が照り付けていてひどく暑かった。
カレハーンやモエルンバ、ドロドロンはともかくとしてキントレスキー、
ミズ・シタターレは十六人がかりでも中々倒せなかった。……

    * *

「ミルッ〜!」
「ミルク!」
あの時、キントレスキーに弾き飛ばされたミルキーローズは限界を超えミルクの姿へと
戻ってしまった。満がミルクの身体を抱え、地面に叩きつけられるのを防ぐ。
かつてひょうたん岩と呼ばれていた岩陰で満はミルクを抱いたまま傷だらけの身体を
少し休めた。
夕凪町自慢の海もこの時には消えていた。ミズ・シタターレの力を持ってすれば
海を干上がらせることもできないことではない。
おりしも照りつける太陽の光は灼熱となり、戦闘で疲弊したプリキュアたちの体力を
さらに奪っていた。
岩陰で身体を休めていたのは満とミルクの他、薫とシャイニールミナスの合わせて四人。フリルを引き裂かれたルミナスの姿は特に痛々しい。
薫はごくりと唾を飲み込んで喉をうるおすと満と目を合わせ、頷きあった。
満はルミナスにミルクを渡す。
「満さん、薫さん……」
「行ってくるわ。なんとかしてあいつらを止めないと……ミルクのこと頼むわ」
「ミ、ミル!? ミルクも行くミル!」
ミルクはルミナスの腕の中でもがくが、身体に力が入らない。「だめよ」と満は答えた。
「ミルキーローズならともかく、ミルクのままであいつらと戦うなんてできないでしょ」
「私たちにまかせて。必ずプリキュアを補佐して……!?」
岩から顔を出した薫の言葉が途中で途切れた。キントレスキー、ミズ・シタターレと
戦うプリキュアたちの身体から眩い光が放たれ直視することができない。
薫は思わず顔を背けた。

「ああ、あれは!?」
「フィーリア王女!?」
いつの間にか岩陰にフィーリア王女が現れていた。
閃光を放つプリキュアたちの姿を見ながらおろおろとしている。
「フィーリア王女、あれは何なんですか!?」
ただごとではなさそうだと直感して満が問うと、フィーリア王女は
「あれはプリキュアの……しかし、危険です!」
「要するにどうなってるミル!?」
苛立ったミルクにフィーリアは「プリキュアたちが我を失っています」と答える。
「キントレスキーたちに対抗するためプリキュアが力を集中しすぎた結果、
 我を失い代わりに脅威の力が……」
「そ、それならいいのでは!?」
「しかしあの力を放出したらおそらくプリキュアたちもろとも世界が消えてしまいます!」
「ええっ!?」
その場にいた四人全員が叫んだ。
「と、止めるミル!」
「どうすればいいんですか!?」
「なんとかして……」「早くしないと……」
『フィーリア王女!』
聞こえてきた声は光の園のクイーンのそれだった。
『あなたと私の力を合わせれば、一時的にせよ戦闘を止めることができます。
 プリキュアの身体が癒えるまでの時間を与えることが』
「それしかなさそうですね……キャラフェよー!!」
光の園のクイーンとフィーリア王女のとった方法は満や薫、ルミナスやミルクにとって
予想外のものだった。突然プリキュアもキントレスキーたちも消えたのだから。
代わりにフィーリアの手元に小さな壷が現れた。

    * *

「……壷?」
ミルクの話を聞いていたパインが不思議そうに声を上げる。
「なんで、壷なの?」
「なんで壷かは知らないわ。でも、その壷の中にクイーンと王女の力で仮の世界を
 作り出し、そこにあなた達を封じて身体を癒すまでの時間を与えたのよ。
 簡単に言ってあなたたちはあの時力を出そうとしすぎてオーバーヒートしていたわけだから」
「ええええええ!?」
全員が驚いた声をあげた。
「じゃ、今いるのってその壷の中!?」
「ええ、そうよ! あなた達がここでプリキュアとしての力を取り戻したら
 外に出てくるという計画だったのよ」
「満さんと薫さんは!? なんで薫さんはあんなことになってるの!?」
「それはこれから説明するわ。その時に壷の中に封じられたのはあなた達だけじゃない。
 放っておけば世界を破壊してしまうだろうキントレスキーたちも同じように
 この壷の中に入れられたわ。でも、あなたたちの身体が癒える前に彼らによって
 傷つけられることがあってはならない。だから彼らはこの壷の中で、
 更に厳重に封印されたの。
 プリキュアが力を取り戻したら、彼らを倒せば出口ができる。
 そして外に出てくればいい。でも……」

    * *

『――フィーリア王女。計算外でしたね……』
プリキュアもキントレスキーたちもいなくなった世界にクイーンの声が響く。
その声は深刻なもので、ミルクはどんな話が出てくるのかと内心怯えていた。
「ど、どうなったんですか」
「みんなに何か……」
満と薫も恐る恐るフィーリア王女に尋ねる。

「この壷の中にキントレスキーたちをより厳重に封印しました。
 しかし、彼らの力は私たちの予想よりも強く……」
一同はフィーリア王女の言葉を待つ。
「プリキュアが力を取り戻すまで封印が保たないかもしれません」
「そ、そんな……」
ルミナスが息を飲んだ。
「それではプリキュアの皆さんがこの中であの敵に……!」
「ええ……」
フィーリアは眉を顰める。満と薫がすっと立ち上がった。
「ミル? 満、薫……?」
その立ち方はミルクにどこか不安を抱かせる。
「キントレスキーたちの封印を強くすればいいんですね? 
 プリキュアの身体が癒えるまで保つように」
フィーリア王女が満の言葉に頷くの確認すると薫が言葉を繋ぐ。
「ならば、私たちの身体をお使いください」
「満、薫……」
『本当に良いのですか』
クイーンの声が響く。ええ、と満と薫は答えた。
「プリキュアたちが元の状態に戻るまで、私たちが封印の一部となって」
「キントレスキーたちを封じ続けます」


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