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第六話 真相

くるみがやって来た日の翌朝、舞はいつもより遅い時間に目を覚ました。
前夜は咲といろいろ話をしたものの、やはり「思い出す」には至らなかった。
咲の部屋に一緒に寝かせてもらったのだが咲はまだ眠っている。
柔らかそうな頬を軽くつつくと咲は「う〜ん……」と寝返りを打ってまた眠る。
今朝は、昨日図書館に行っていたメンバーが朝食を作ることになっている。
耳をすませば台所から物音がする。ほのか達がもう起きているのだろう。
――手伝おうかな……

舞は布団から抜け出そうとしたが隣で寝ている咲に手首を掴まれる。
「お、おはよう咲」
「おはよ〜……」
咲はまだ寝ぼけ眼だった。起こしてしまったのかもしれないと舞は少し反省する。
「わ、私みんなを手伝ってくるから……」
「ねえ舞〜、一緒に行こうよ」
聞いているのかいないのか、咲は全然関係のないことを言い始める。
「どこに一緒に行くの?」
「私のお気に入りの場所」
咲もだんだん目が覚めてきたらしい。ちゃんとした会話ができるようになっている。
腹筋だけで咲は上半身を起こした。
「朝行くとね、すごく綺麗な場所があるんだ」
「朝が一番なの?」
「そうそう。だから舞、ご飯の前にこっそり行って来ようよ」
布団から起き上がるとにっこり笑って咲は着替え始めた。


その頃台所ではかれんとくるみが頭を抱えていた。
「こまち……私はあなたという人が本当につくづく分からないわ」
「そうかしら? おいしいと思うけど」
ほのかの作った味噌汁に羊羹が投入されているので鍋の中は黒っぽく見える。
「意外とおいしくなるんじゃないかしら?」
ほのかも妙に寛容だ。ラブたち三人は苦笑いを浮かべながらおにぎりを作っている……と、
「ブッキー鰹節と間違って唐辛子入れるのやめて!」
ラブの叫び声が辺りの空気を切った。

――なんでプリキュアのこと忘れてても羊羹のことは覚えていたりするのかしら……
頭が痛い。くるみはそう思ったが、考えてみればそれも当然かもしれない。
プリキュアのことはわずか一、二年のできごとだし羊羹はこまちが産まれてから
ずっとそばにあるのだろうし……とはいうものの。
「こまちさん、おにぎりに羊羹もだめです!」
美希の声を聞いてくるみはまた頭が痛くなった。


「こっちだよ、こっち!」
首尾よく家を抜け出した――内緒にする必要もないのだが咲は何となく舞を
こっそり連れ出したかった――咲は舞の手を引っ張って早朝の街を駆ける。
「どこまでいくの?」
「うん、後ちょっとだよ!」
咲は山の方を目指している。石畳の道をしばらく走ると急に土の道になった。
咲は速度を降ろして歩き始める。
「このすぐ先にね、すごく大きな樹があるんだよ」
「大きな樹?」
「うん、こーんなに大きくてね、」
咲は大きく腕を広げた。
「空まで届いているみたいに見えるんだ!」
「その樹が咲のお気に入りなの?」
「うん!」
にっこり笑って頷くと咲はほら、と指差した。
「あそこの樹、見えるでしょ?」
周りの樹よりも一際背が高いその樹は確かに目立った。
「行こっ!」
咲と舞は小走りになった。


「ほう、お前らも脱出していたとはな」
その頃、かれんたちが残っている家の近くには三つの影が集まっていた。
「セニョールと同じでウザイナーで様子見してみたんだけどねえ……
 そろそろ俺が直接叩き潰してやろうかなって思ってさ、チャチャ!」
「た、叩き潰すのは僕がやるよ」
「まあ、いいさ」
カレハーンはモエルンバと地下から頭だけを出しているドロドロンを見てにやりと笑った。
「獲物は大勢いるんだ。乱戦と行こうじゃないか」
「珍しくいい考えだな、セニョール」「ガッテンだ!」
三人組は三手に分かれるとそれぞれに家を目指した。


「何か来るわっ!」
気配に気づいたローズが叫び声をあげた。みんなが一瞬、え? という顔をする。
「ラブ、変身して! ほのかもなぎさを起こして変身よ!」
自らも変身の準備をしながらローズは指示を出す。
「こまちはのぞみたちを叩き起こして! かれんも変身!」
「へ、変身ってどうやるの!?」
ほのかとこまちは寝室の方に走り去り、ラブたちはプリキュアへの変身を終えている。
開いた窓からカレハーンが飛び込んできた。
「あなたは!?」
「俺の名はカレハーン、カレッチと呼んでくれ!」
「カレッチ……?」
ピーチがカレハーンに対応している間にローズはかれんに変身の仕方を教える。
「かれん、キュアモを持ってるでしょう!? それでメタモルフォーゼよ」
言われるままにかれんはいつの間にか手にしていた携帯電話様の機械を強く握った。
「プリキュア、メタモールフォーゼ! ……知性の青き泉、キュアアクア!」
これは……とアクアは変身した自らの姿に驚くが、
「こまち達にも変身の仕方教えてあげて!」といわれ一旦家の奥、寝室に戻る。
「起きなさい、あなた達!」
うだうだしているのぞみを一喝で起こした。

「はは、カレッチ! こっちだぜ、チャチャ!」
カレハーンはピーチたち三人、ブラックとホワイトに追い掛けられた振りをして
外におびき出す。そこに踊りながら待っていたのはモエルンバ。
炎が彼の周りに浮かび上がる。プリキュアたちが思わず止まると
カレハーンとモエルンバは「枯葉よ!」「炎よ!」とぐっと腕を突き出す。
「カレモエ・マーブルスクリュー!」
舞い上がる枯葉と炎はうなりを上げ互いに絡み合ってプリキュアたちへと伸びる。
はっとプリキュアたちが逃げる間もなく、爆発と炎が彼女達を覆った。
「プリキュアっ!」
ローズはピーチたちを支援しようと外に出るが突然大地がぐらりと揺れる。
「プリキュア倒すーっ!!」
ドロドロンが地中から姿を現した。とん、とローズは跳び距離をとる。
向こうに見えるピーチたちはカレハーンとモエルンバにいいようにやられているように見えた。
――もしかして、プリキュアは今……

「くるみさん!」
アクアを初めとするプリキュア5が駆けつける。
「なんだよ、うるさいなあ。お前らなんか何人出てきたって……」
ドロドロンが地中から飛び上がったかと思うと、指から蜘蛛のような網を放つ。
あっさりとプリキュア5は捕らえられた。
――やっぱり、みんな弱くなってる!
プリキュアの力の根源は少女たちの持つ強い心だと、くるみは聞いたことがあった。
そして少女たちの心は絆によって育まれる。
それは少女たち同士の絆でもあるし、親や周りの大人たち、
学校の友達や異世界の友人達といった人々との間の絆でもある。
昔の記憶をほとんどなくしている彼女達は現在これらの絆もまたほとんど失っている。
だから……、

「邪魔なんだよ」
網の中で騒いでいるプリキュア5をぽんと投げ上げ木の枝に引っ掛ける。
そんなに好き放題されるような彼女達ではないはずだ、本来ならば。
――私が何とかしなきゃ……
ミルキーローズは決意を固めた。だが、
「どっち見てんだよセニョリータ!」
――えっ!?
背後から飛んできた炎の弾がローズを襲う。咄嗟によけるも蔦の二次攻撃。
「三人がかりで攻撃なんて卑怯よ!」
「プリキュアに言われたくないぜ〜セニョリータ」
それもそうね。思わず納得しかけたローズの足首に蔦が絡まり、地面へと引き倒された。
「とどめだぜセニョリータ!」
勝ち誇るモエルンバ、だがキュアピーチが地面を這い彼の足を掴んで転ばせる。
思わずモエルンバはピーチの肩を蹴り飛ばした。
「あんたたちなんかに……負けないんだから……」
カレハーンとモエルンバの合体技を喰らって倒れていたブラックがホワイトの手を
引きながら立ち上がる。
「私たちも何とかしなきゃ!」
「とにかくここから脱出しましょう!」
ドリームとレモネードの声に押されるようにプリキュア5の面々は網から脱出できないか
網を調べ始める。


そんな戦いの喧騒は樹の下にいる咲と舞には届かなかった。
静寂が二人を守っている。
「舞、私こうしてみるの好きなんだ」
咲は両腕を大きく開き、樹の幹にぺたんと張り付く。
「舞もやってみたら?」
「ええ」
言われたとおりに舞も咲と同じ姿勢を取った。樹の幹に体重を委ねると、ぺたりと
顔を樹に押し付ける。ふわりとした芳香が舞の鼻をくすぐった。樹は枝を空一杯に伸ばし、
その葉は朝日の光を浴びてきらきらと輝いている。木漏れ日は咲と舞の頭上から静かに
降り注いでいた。耳を当てるとごうごうと命の音がする。
二人は気づかなかったが、薄い光の柱がゆっくりと空から咲と舞の樹の上に
伸びてきていた。
光は樹に吸い込まれるようにして消え、咲と舞の触れている樹皮がどくんと動く。
「……?」
咲と舞は驚いて樹から少し身を離したが嫌な感じはしない。
むしろ温かい何かが樹皮に触れたままの手を通じて流れ込んでくるように感じる。
「……!」
何かを感じて舞は大きく目を見開いた。
「咲!」
隣の咲を見ると咲もじっと舞を見ている。
「舞」
「……咲」「舞……」
二人は樹に手を触れたまま互いの名前を幾度も呼び合う。
「咲……!」
舞が目を閉じてぽろっと涙を流す。
「舞」
咲は舞の身体を抱きしめた。どうして今までずっと忘れていたのだろう。
お父さんやお母さんや兄妹のこと、夕凪中のみんなのこと、
ずっと一緒にいた精霊たちのこと、パートナーのこと、それに満や薫のこと。
樹皮から二人に流れ込んできたものは温かい記憶だった。
「咲、やっと思い出したラピ!」「舞もチョピ!?」
ぽんとフラッピとチョッピが姿を現す。咲は「へっ?」と驚いた。
「フラッピもチョッピも……いつの間に?」
「ずっとそばにいたラピ」
むくれたようにフラッピが答える。
「咲と舞が忘れてる間はチョッピたちのことが見えないみたいチョピ」
「ご、ごめんフラッピ、チョッピ!」
「それはいいラピ。あっちで怪しい気配がするラピ!」
「きっと他の皆が戦ってるチョピ! 速く行くチョピ!」
「ええ!?」
なぎささんが――かれんさんが――と、咲と舞の頭に最近親しくしていた
プリキュアの顔が浮かぶ。
「行こう、舞!」
「ええ!」
舞は涙を拭いチョッピの入ったコミューンをぎゅっと握り締める。
「みんなを手伝って、その後――」
「満さんと薫さんを助けなくちゃ!」
咲と舞の腕がクロスした。
「デュアルスピリチュアルパワー!


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