前へ 次へ

第五話 対立

「レモン絞って入れてみましょうよ、レモン!」
「そうね、意外とすっきりした味になるかもしれないわ」
うららと舞の声がする。家に戻ってきたかれんとこまちはその楽しそうな声に思わず
顔を見合わせた。
「じゃあチョコレートも入れよう!」
「さんせーい!」
「いやその……あんまり色々入れたらカレーだか何なんだかわかんなくなりますから……」
「りんちゃん、折角だからいろいろ冒険してみようよ!」
なぎさや咲たちの声もする。妙に楽しそうだ。
「……?」
家の中に入っていくと、カレーの匂いが鼻をつく。
「あ、かれんさんたちだ!」
かれんたちが戻ってきたのを見てのぞみが嬉しそうに声をあげた。
「……何をしてるの?」
「今日はハンバーグカレーなんです」
台所が舞が出てくる。咲から借りたらしいエプロンで濡れた手を軽く拭っていた。
「味付けでみんな張り切っちゃって」
苦笑しながら話す舞はどこか落ち着いて見えた。
「羊羹を入れてみたらどうかしら?」
味付けと聞いて早速とばかりにこまちが乗り出す。
「こまちさんそれはちょっとさすがに……」
かれんとほのか、ラブたち三人はそんなこまちの姿を見ながらはーっとため息をついて
ソファに腰掛ける。
「なんか、みんな元気ないね」
咲は台所からそんな五人の様子を窺った。
「調べもの、うまく行かなかったんですか?」
舞がこまちに尋ねると「ええ、まあ……」とこまちはお茶を濁した。
「でも、今日のカレー食べたらきっと元気でますよね!」
うららがはしゃいでいる。
「うららってカレー好きだとは思ってたけどそんなに好きだったんだ」
なぎさが半ば呆れたように笑った。

ハンバーグカレーというこれまでになく豪華な夕食を終え、食器などの片付けも終えると
舞と咲は軽く目配せをしてお互いに頷きあった。言うのは今だ。
「あの、かれんさん」
舞がかれんに話しかける。かれんはソファの上で身体を休めていた。
「どうしたの、舞?」
「咲と二人で話したんですけど、家に戻ろうと思うんです」
「……」
かれんは無言で舞の次の言葉を待つ。みんなも何となくかれんと舞の会話に注目し始めた。
「咲と一緒に家に帰って洞窟に行って、薫さんと会ってみて……そうしたら、」
「ねえねえ、それって舞ちゃんには『何かが分かった』ってこと?」
のぞみが聞くと、舞はううんと首を振った。
「まだ分からないけど。でも、咲とは初めて会ったような気がしないし、二人で薫さんに
 会えば本当に『何かが分かる』かもしれないって思うの。
 そしたら、薫さんのこともあの洞窟から出してあげられるかもしれないから」
かれんはふーっと息を吐き出した。落ち着かなくてはいけない。
なんとしてでも、舞たちを止める。こまちはそんなかれんを心配そうに見ている。
「私は反対ね」
「えっ?」
まったくの予想外であったように舞はきょとんとした表情を浮かべた。
「咲さんと一緒に帰るのは止めておいた方がいいわ」
「どうしてですか?」
黙ってしまった舞に代わって咲が尋ねる。
「……咲さん。あなたにも私が見たものは話したし舞からも洞窟の話は聞いたんでしょう?」
咲は頷く。それを見てかれんは更に続ける。
「どう思ったの?」
「どう……って。不思議な話だなって」
「そうね、不思議な話よ。普通ではありえないことよね」
こくりと咲は頷いた。ほのかはかれんの様子をはらはらしながら見守っていた。
かれんが言わんとしていることは何となく想像がつく。
だが、それを舞や咲に言ってしまっていいものかどうか。
「薫さんを洞窟から出したらどうなると思っているの?」
「どう、って」

咲は口を噤んだ。薫を出した後のことは深く考えていない。――漠然と思っていた事を
咲は口に出した。
「友達になって、それで……」
咲の言葉を聞いてかれんは一瞬ひどく悲しそうな表情を浮かべたがすぐに
厳しい表情に戻る。
「友達ね。無理だと思うけど」
「どうしてですか?」
咲は怪訝そうな表情を浮かべる。
「月の魔物、風の魔物って知っているかしら?」
言った、とほのかとこまちは思った。かれんは自分の抱く疑惑を完全に明らかにしてしまう気だ。

「魔物――?」
「伝承に出てくる魔物のことよ。伝説の戦士に倒されたそうだけど」
伝説の戦士。その言葉を聞いてラブと美希、祈里はちらちらと互いに目を合わせた。
「聞いたことはありますけど、その魔物と薫さんのことと何か関係があるんですか?」
「彼女が魔物だと私は思っているわ」
これ以上ないほどのはっきりとした宣言だった。
咲は一瞬呆気に取られて言葉が出ないようだったが、
「そんなこと、ないです!」
舞が思わず目を閉じて大声を出す。
「どうしてそう言えるの?」
冷静なかれんの声に舞はやや昂ぶった声で「だって、そんなこと絶対……!」と答える。
「条件が揃いすぎていると私は思うわ」
「条件?」
かれんは咲を見る。
「あなたは彼女を見たことがないでしょうけど……私の目から見て彼女は、
 誰かに封印されたように見えたわ」
舞が「封印」という言葉を使っていたのを咲は思い出した。
舞の目にもそう見えたのだろう。
「でもそれだけで……」
「いいえ。私たちがここに来るまでの間に見つけた赤い石と青い石は
 月の魔物、風の魔物が持っていた石と良く似た性質を持っていることも分かったわ」
「で、でも」
「彼女は私たちの名前を知っていた。その私たちがそんな石と出会った。
 彼女は封印された存在に見える。できすぎていないかしら? もっと言うなら――」
私たちがこんなに簡単に出会えたのができ過ぎであるようにも思えるわ。とかれんは続けた。
「……違いますっ!」
咲よりも早く舞が大きな声を上げる。ぎゅっとつぶっていた目を舞は開いたが、
かれんの目を見て視線を横にそらした。
「薫さんがそんなはずありません」
「どうしてそう言えるの?」
前と同じ質問をかれんは繰り返した。
「で、でもかれんさん!」
のぞみが舞の前に飛び出した。
「その薫さんの言葉のおかげで私たち会えたんだし、そんな悪い人ってことはないんじゃ……」
「だからといって、彼女を洞窟から出して本当に魔物だったらどうするの。
 責任は取れるの? 伝説の戦士プリキュアでもないとどうしようもないのよ」
「だから薫さんは……」
そんな存在じゃありません。そう言いかけた舞の言葉を遮るようにほのかが
かれんの横に立った。
「私も水無月さんに賛成ね……危険が大きすぎるわ、舞さん」
「そ、そんなことないんじゃないの!?」
なぎさが割って入り舞たちの側につく。
「危険って言っても……その石を調べたっていうのだって、
 ちゃんと調べたわけじゃないんでしょ!?」
なぎさに他意はなかったが、実際に実験をしたほのかにとってはかちんとくる言葉だ。
「そんなことありません、ちゃんと調べてますっ!」
ほのかに怒られなぎさはたじたじとなるが「ちゃんと調べたかもしれないけど、でも」と
言い返す。

ラブはその様子を見ながらもじもじとしていたが、
「あの、私たち実はプ……」
「何!?」
気の立っているほのかとなぎさに同時に返され「いえ、なんでも……」と消え入るような
声で答える。
――プリキュアだなんて、言えないよね……。
黙ったラブを美希と祈里が両側から支えて慰める。
りんは一同の様子を見ながらため息をついた。心情的には舞やのぞみの味方をしたいが、
かれんたちの言っていることの方がたぶん正論だ。のぞみ一人ならりんが説得することも
できるが咲や舞、なぎさまで説得するとなると……、

バンと乱暴に机を叩く音が全員の注目を集めた。立ち上がるこまちの姿に一同が何となく
恐怖を覚える。

「みんな、少し落ち着いたら……?」
こまちはにっこりと微笑む。誰もそれに反対する者はいなかった。
かれんがどさりとソファに腰を下ろす。なぎさが「えーっと……」と言いながら台所に
麦茶を探しに行き、舞は「……ごめんなさい」とかれんに言ってそのまま部屋を出た。
咲がその後を追いかける。
「……大丈夫なの?」
ほのかが舞の後ろ姿を見ながらかれんに聞くと、かれんはええと頷いた。
「後でもっとゆっくり話してみるわ」
「そう……」

ラブたち三人は舞の後を追った。少し探すと、舞は咲と一緒に家の外でベンチに
座っていた。外はもう星空だ。
「あ、あの、舞ちゃん」
恐る恐る、後ろ姿の咲と舞に話しかける。振り向いた舞が泣いているのかと思ったが、
そんなことはなかったのでラブたちは少し安心した。
「あの、私たち今日少しかれんさんと話したんだけど……かれんさん舞ちゃんのこと
 すごく考えてるみたいだったから、今のも舞ちゃんのことを心配してたからで……」
舞はラブの言葉を聞いて微かに笑った。
「分かってるわ、かれんさんのこと。……後で、もっとちゃんと謝るつもりなの」
「そう……なんだ」
ラブと美希、祈里にも笑顔が戻る。
「ごめんなさい、騒がせてしまって」
「ううん、そんなこと気にすることないよ」
謝る舞にそう言うと、ラブたち三人は咲と舞を二人きりにしてそのまま家の中に引き上げた。
かれんたちが居そうな大部屋には戻らず、玄関でぼそぼそと会話を交わす。
「私たち、もし伝説の戦士プリキュアだったら魔物と戦うのかなあ……」
祈里が不安そうにしている。美希も、
「その薫さんって人と? 舞ちゃんがあんなに信じてるみたいなのに?」
とあまり気が進まない様子だ。
「私たち、魔物と戦うなんて本当にできるのかなあ?」
ラブの言葉は三人の共通して抱いている思いを言い当てていた。
三人は顔を見合わせてため息をつく。


ほのかはその頃、ゴミを集めて家の外に出しに行こうとしていた。家の外にゴミを集めて
おく場所があったのには気がついている。
袋を縛っているとなぎさが気まずそうに近づいてくる。
「あ、あのさ雪城さん、手伝う……」
「だ、大丈夫よ一人で」
ほのかは強引に袋を縛ると半ば引きずるようにして持っていく。
なぎさは手伝おうとするものの手が届かない。
「だから手伝うってば」
「大丈夫だから!」
逃げるようにほのかはゴミ袋を引きずり外に出る。
「だから、雪城さん」
二人が外に出ると生暖かい風が吹いてきた。何となく気持ち悪かったが今は
雪城さんの方が先だとなぎさは考える。
「さっきはその……」
「ウザイナー!」
なぎさ、ほのかどちらでもない声に二人はえ? と顔を見合わせる。
声をした方に目をやるとぼうっと光る赤い火が宙に漂っている。
「ひ、火の玉?」
なぎさが驚く。
「火の玉はプラズマなはずよ……」
「ウザイナ〜」
怒ったような目をした火の玉が気づけばいくつもいくつも、周りに飛んでいる。
「え、えーと、プラズマって喋るの!?」
パニックを起こしそうな自分を必死に抑えてなぎさが聞くと「そ、そんなはず……」
とほのかが答える。
「ウザイナー!」
火の玉が一斉に向ってくる。
「逃げよう!」
なぎさはほのかの手を引いて駆け出した。なぎさに手を掴まれた時、ほのかの胸の中で
何かが動いた。

「ラブ、さっきウザイナーって声が!」
ラブ、美希、祈里の三人もウザイナー出現に気づいてなぎさたちの方に向っていた。
「火の玉みたい……なぎささん、ほのかさん!?」
火の玉の群れに追われてなぎさとほのかが走っている。火の粉が飛び散り、
たまになぎさやほのかの髪を焦がしている。
「あ、あなたたちも逃げて! 早く!」
ほのかはそう叫んだがラブたち三人は火の玉に向けて突進した。
――倒せるか、なんて言ってらんない! なぎささんとほのかさんを助けなきゃ!
ラブは覚悟を固めると携帯電話のような機械を取り出す。
「チェーンジ、プリキュア! ビートアップ!」
三人は次々にプリキュアに変身した。拳を打ち込むと火の玉の群れが一瞬離れ、
遠巻きに五人を取り囲む。
「プリキュア……?」
なぎさとほのかはラブたち三人を見ながら目を丸くしていた。
「あなたたち、プリキュアって!?」
「後で話します!」
振り向かずに答えラブは一番大きな火の玉に突進する。だが火の玉も既にラブの動きを
把握し鞭の様に変化したかと思うと逆にラブの身体を縛って大地に叩きつける。
「……ぎさ、なぎさー! 聞くメポ!」
ポケットから突然声がしてなぎさはぎょっとしてまさぐる。
ポケットの中には携帯電話が入っていた。
「ほのかも、早く変身してミポ!」
ほのかも驚いたが、いつの間にかなぎさと同じような携帯電話を握っていた。
「へ、変身ってどうやって!?」
「いつもみたいに手を繋ぐメポ!」
手を……一瞬なぎさとほのかは目を合わせたが、すぐに手を握り合った。
「デュアルオーロラウエーブ!」
後は身体が勝手に動いた。


前へ 次へ
コラボSS置き場へ戻る
indexへ戻る