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「ねえうららちゃん、あの山は何ていう山なの?」
のぞみが街の向こうに見える高い山を指す。
この街に来る時、「あの山にぶつかっちゃうんじゃない?」と一同が心配していた山だ。
「ああ、あれはひょうたん山です」
「ひょうたん山?」
素っ頓狂な名前にりんが不思議そうな声を上げると、
「山の上に大きな岩があって、その形がひょうたんみたいに見えるんですよ。今日は霞が
 かかっているから良く見えませんけど、
 晴れている日はこの街からもひょうたんの形が見えるんです」
「へえ〜、面白そうだねりんちゃん」
「うん、見てみたいね」
「数日この街にいれば見られると思いますよ……こちらが、図書館です」
図書館の前には祈里の犬が繋いである。なぎさに連れられて祈里たちはこの中に入って
いったのだろう。犬は大人しく主人が出てくるのを待っていた。
「すごく大きな図書館だね〜」
「本当に。ここだったら何でも分かりそう」
のぞみとりんは図書館を見上げて呟いた。建物自体は五階建てか六階建てだろうか。
世界中の本がここに集まっていそうな気がする。


――この本も、だめね……
ほのかは何冊もの本を机の上に積み上げては関連すると思われる箇所を拾って読んでいたが、
あまり役に立たない物が多かった。
彼女が探しているのはこまちが話していた魔物に関する記述、
とりわけ石に関する話である。書いてある本は何冊もある。
形態は確かにほのかが現在持っている二つの石に似ていた。
しかし、彼女が探しているのは石の持つ物理的・化学的な性質についての記述だ。
ほのかが簡単に検証できるような性質であれば望ましい。
表情にこそ出さなかったがほのかは内心苦笑していた。こうした神話とか伝承とか
いったもので物理的・化学的性質についての記述を期待する方が多分間違っている。
だが、今持っている二つの石が真に「魔物の石」なのか、単に魔物の石に似せて
誰かが作ったものなのか判断するためにはこうした性質を検証してみるしかないだろう。

普段のほのかなら「伝説にある魔物の石に似せた贋物」だと信じて
疑いもしなかったはずである。だが、この石には特殊な性質がある。
二つの石を一定の距離以下に近づけると発光したり音が鳴ったりするのだから。
一冊、別のところにおいてある本のところにほのかは戻った。これまで見た中で簡単に
検証できそうな記述があるのはこれだけだ。

「月の石と風の石、二つの石を乙女の掌三つ分だけ離して置き、太陽光線を当てる。
 光は石を透過し赤い影と青い影が落ちるが、そのまま動かさないでいると始めてから
 三時間後に影が黒くなる。その後、再び影は赤色と青色に戻る」
とある。何となく胡散臭いが、これしか検証できそうなものがないから仕方がない。
ほのかが今いる場所は薄暗い。窓の近く、本棚のない場所に置いてある台の上に二つの石を並べる。
――乙女の掌って、私の手の大きさでいいのかしら……
自分の手でいいのかどうかは良く分からなかったが、とにかく掌三つ分の長さを測って
二つの石を並べる。予想通り二つの石は赤と青の影を落とした。これで三時間、
動かさないでいればいいわけだ。小走りに走ってほのかは以前の場所から三、四冊本を
抱えて戻ってきた。三時間が経つまでこれを読んで時間を潰そうと考える。
別の検証法が載っていればそれも試してみたい。

「……何してるの?」
本を読み始めてからしばらくしてはっと気づくと美墨なぎさがすぐ近くに来ていた。
台の上の二つの石を不思議そうに見ている。
「触らないで! ああっ!」
ほのかが言ったがもう遅い。なぎさの手は赤い方の石を掴んで動かしてしまっていた。
ほのかの声にびくりとしてなぎさが石を取り落としたが、最初からやり直しだ。
「実験をしてるの。この石に触らないで」
声こそ小さいものの、真剣なほのかの剣幕になぎさはたじたじとなる。
――なんか良く分かんないけど……
あまり話しかけないほうが良さそうだ。
そう判断して、なぎさはその場を離れるとそのまま図書館を出た。


その頃、かれんも別の場所で本を何冊もとっかえひっかえしながら読み込んでいた。
かれんが調べているのは魔物そのものについての伝承だ。
基本的にこまちの話してくれた話と同じだが、いろいろなバリエーションがある。
ただし、月の魔物・風の魔物が人間を装っていた時に使っていた名前は中々出てこなかった。
――伝説の戦士、プリキュア……
代わりに、魔物たちを倒した伝説の戦士「プリキュア」の名は頻繁に出てくる。
本によって描写は違うが、かれんたちと同世代の女の子達が変身して戦ったという記述は
同じだ。
しかし、その人数は二人であるパターンから五人であるパターンまで様々である。
二人の場合にはよしこさんとけいこさんという名前が伝えられているようだ。
「……」
机の上に肘をついて手を組み、おでこにその手を当てるような姿勢でかれんは考え込む。
最悪の事態も念頭に置かなければいけない。
かれんが考える最悪の事態は、もちろん薫が「月の魔物」「風の魔物」と呼ばれるような
存在であることだ。舞が薫のことを信じきっていることは見れば分かる。実際、薫の目を
見れば誰もが「本当のことを言っている」と思うだろう。かれんもそうだ。
だが、とかれんは敢えてその直感を否定する。
――伝説にあるように、そうやってみんなから信じられていったのかもしれないし……
伝説の戦士「プリキュア」がそうそう都合よく現れるとは思えない。

仮に舞が薫の封印を解いてしまうようなことになったら大変なことになる……のかもしれない。
――私が何とかしなきゃ……そんなことになるのだけは避けないと……
かれんの顔が一層俯く。その時彼女の目は一つの文章を捉えた。
「……夕凪の村に現れた月の魔物と風の魔物は人の姿で村人達と接触した。
 二人の少女はそっくりであったが一人は赤く短い髪、もう一人は青く長い髪であった。
 霧生満、霧生薫と自称したといわれている。……」
――霧生薫……!
かれんの心臓がびくんと動いた。

こまちは本棚から本を探すふりをしながら、そんなかれんの様子を見ていた。
少し丸くなったかれんの背中に重い荷物がのしかかっているのが見えるような気がする。
――ごめんなさい、かれん。
こまちは内心で彼女に謝った。彼女の背負っている荷物を降ろしてやりたい。
楽にしてあげたい。しかし、恐らくそれは自分一人の力では無理なのだとこまちは薄々感づいていた。


「あ〜、も〜、結局プリキュアってなに〜?」
一方、ラブたち三人は図書館の中に設けられた小部屋――自習室的な意味合いで作られた
のだろう――に本を持ち込んでひそひそと話しこんでいた。
プリキュアという言葉についてはすぐに分かった。伝説の戦士だ。
しかし、自分たちがどうして伝説の戦士などという存在になったのか、
それは良く分からない。
「あ、こんなところにプリキュアの説明があるわよ」
美希が一冊の本をラブと祈里に見せる。指でここ、と説明箇所を示した。
「プリキュアは十三歳から十五歳の少女が変身すると言われる伝説の戦士。
 プリティでキュアキュアであるためそう呼ばれる」
祈里が読み上げる。
「プリティはともかく……」「キュアキュアって何〜?」
美希とラブが同時に机の上に突っ伏した。
「キュアって治療ってことじゃないかしら。あとは、癒しとか」
祈里の言葉に美希が突っ伏したままで続ける。
「じゃあプリキュアっていうのは可愛くって治療治療。あるいは可愛くって癒し癒し、
 ってこと?」
「結局よく分かんないね……」
祈里がため息をつく。本に出てくるプリキュアの説明をいくら読んでも、
自分たちがプリキュアになった理由が分からない。
「あの枯葉の集まった変なの……『ウザイナー』って言ってたっけ?」
美希が顔を上げて本を手に取る。
「ここに書いてある、『木の魔物』っていうのがあれなのかしら……
 『枯葉を使った攻撃を多用する』とも書いてあるし」
「じゃあさあ、もしかして伝説にあるような魔物たちが出てきたからプリキュアも出てきたってこと?」
どこか眠そうなラブの言葉に祈里と美希は深刻そうな表情になる。
「それって私たちが」
「七体の魔物を倒すってこと?」
――そんなこと、できるの? ……
どう考えても無理のような気がする。美希と祈里は不安げな視線を交わした。


かれんとこまちが図書館を出ようとした頃、ほのかの三時間の実験もちょうど終わろうと
していた。
「……」
ほのかは無言のまま台に置いた二つの石を見つめる。赤い影と青い影。
二つの影はわずかな間黒くなり、それからまたゆっくりと赤と青の色を取り戻した。
もちろん、通常の石では考えられないような反応だ。
――まさか、これ、本物? ……
立ち上がり石を台から取ると、本を元の棚に戻すためゆっくりと歩き始めた。
ほのかの中でこまちの言っていた伝説の話が急に現実味を帯びる。
本を一冊一冊戻して歩くほのかのすぐ後ろにかれんとこまちが立った。
「雪城さん」
「水無月さん、秋元さん」
二人は当然、ほのかが何について調べているのか察していた。
かれんはほのかの顔を正面から見据える。
「石について何か分かったの?」
「え、ええ……」
ほのかは答えることを躊躇った。だが、かれんは答えが出るまで退きそうにはなかった。
「秋元さんが教えてくれた、魔物の石に似ているという話が気になって調べてみたの。
 ……伝承で伝えられているのと同じような性質を持っていることが分かったわ」
「それでは、その石は魔物の石だということかしら?」
かれんが腕組みをする。
「その可能性が少し高くなったということよ」
ほのかは慎重な言い方をした。まだ確定したわけではない。
「雪城さんが調べた性質は普通の石でも持っているようなもの?」
「……いいえ。通常では考えられないような性質よ」
「そう。分かったわ」
かれんは腕組みを解くと、ほのかが抱えている本を二、三冊取り分類番号にしたがって
無言のままで棚に戻し始めた。こまちはそんなかれんを心配そうに見ている。
ほのかにも、かれんが懸念していることは何となく分かった。
誰かを魔物ではないかと疑っているのだろう。その「誰か」が誰かと言えば……。

図書館の入り口付近で丁度出てきたラブたちと合流し、六人は言葉少なくなぎさたちの
家に戻った。


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