前へ 次へ


「それで、祈里さん。この石ちょっと借りてもいいかしら? 調べてみたいことがあって……」
「あ、はい。何か分かるんですか?」
ほのかは青い石を赤い石と並べて置く。
「一応、いくつか持ってきた器材があって……基本的な値の測定だけでも……」
鞄の中からラブたちが見たこともないような器材を三つほど取り出し机の上に置く。
「舞さん、手伝ってもらえるかしら?」
「はい!」
ほのかの指示に従い、舞は器材と石をセットする。
「あの〜……これで何が分かるんですか?」
「硬度を測るつもりなの。スペクトルも。宝石としての基本的な性質が分かるのよ。
 図書館にも行ってみるつもりだけど……」
ほのかがラブに答える。ラブはほのかの答えもよく理解できていないようだったが、
「図書館?」と更に尋ねた。
「ええ、この近くにある大きな街に図書館があると聞いて、そこでも少し調べものを
 しようと思って。何か文献があるかもしれないから」
「あ、それでさっき道を聞いたんですね」
美希にほのかは頷く。そしてちらりとソファのかれんとりんたちに目をやって苦笑した。

「再出発するまでには少し時間がかかりそうだけど……」
ラブたちも苦笑するほかなかった。……ラブは、外から何か物音が聞こえてきたような気がした。

「何だろ、ちょっと見てくるね」
ラブがそう言って玄関に向うのを美希と祈里も追いかける。
舞はほのかの手伝いをして目盛りの値を読んでいた。ほのかが舞の読み上げる数字を
ノートに記録して行く。
「またお客さんかなあ」
呟きながらラブは玄関のドアを開ける。そこには誰もいなかった。風だけが強く吹きつけ、
枯葉を舞い上げている。
「風の音だったのかな?」
「あんまりそうも聞こえなかったけどね」
ラブの後ろで祈里と美希が口々に言う。ラブも頷き、三人はドアから外に出た。
「……ウ……ザイ……ナ……」
「美希たんなんか言った?」
微かに聞こえてきた声にラブが振り返る。美希は首を横に振った。

「ウザイナーッ!!」
「って、えええええ!?」
今度ははっきりと聞こえてきた声にラブがそちらを見ると、枯葉が集まり山のような
一つの形を作っている。
山は一瞬小さくなったかと思うと人のような姿になって立ち上がり、
「ウザイナー!」
「ええええ!?」
「なんで私たち追いかけてくるのぉ!?」
向ってくるので三人は思わず家から離れて駆け出した。
「何なのよあれー!?」
「私に聞かれたって!」
「きっと逃げられるって私信じてる!」
三人は口々に言葉を交わしながら逃げ、木の影に隠れる。
「ウザイナー……」
「ち、近づいてくるよ……」
祈里が震えた声を出した。多分この木は三人の姿を隠してくれてはいない。
「どうしよう……」
ラブは何かないかと自分の身をまさぐった。何か、隠してくれそうな物。この際変装用のカツラでもいい。――手が腰の何かに触れた。
「……?」
どうして今まで気がつかなかったのだろう。携帯電話くらいのサイズの小さな機械。
「これ、もしかしてこうやったら……」
ラブが携帯電話のような機械をいじる。と、
「チェンジ、プリキュア! ビートアップ!」
掛け声と共にラブの姿は変化した。
「ラブ!?」
美希と祈里の前で「ピンクのハートは愛ある印! もぎたてフレッシュ、キュアピーチ!」とラブが変身を終える。
「って、これ何!?」
「ラブ後ろ!」
「わっ!?」
襲い掛かってきた枯葉ウザイナーの手をラブは思わず突き飛ばす。
「あ……れ?」
自分でもびっくりするほど力が出た。ウザイナーの身体が後ろに吹っ飛んでいる。
「よ、良く分かんないけど何かやってみるね!」
ラブは枯葉ウザイナーを追いかけ、起き上がってきたところを手を掴んで投げ飛ばす。
美希はその様子を見ながら、自分も携帯電話らしき機械を持っていることに気がついた。
「これ……!?」
「美希ちゃんも!?」
そう言った祈里もまた、自分が同じような機械を持っていることに気づく。――むしろ、
今まで気がつかなかったことが不思議だった。
「わっ!?」
ラブ、今はキュアピーチの悲鳴が二人に届く。枯葉ウザイナーが放つ枯葉が嵐のように
ピーチに襲い掛かっている。美希と祈里は手に持つ機械を見つめ、頷きあった。

「チェンジ、プリキュア! ビートアップ!」
キュアベリーとキュアパインに変身を終えた二人が「プリキュアキーック!」と
枯葉ウザイナーを蹴り倒す。驚くほど自分たちの身は軽かった。
「え? え?」
ラブは二人の姿に目を丸くした。
「こうなったらとことんやるわよ、ラブ! プリキュア・エスポワール・シャワー!」
手をスペードの形にしたかと思うとベリーが光線技を放つ。
見よう見まねでピーチ、パインもラブ・サンシャインとヒーリング・ブレアを放ち、
ウザイナーはただの枯葉に戻った。

「……って、」
三人もまた元の姿に戻る。ぽかんと口を開けていたが最初に言葉を出したのはラブだった。
「今のってなにー!?」
「私だって全然分からないわよ!」
「何だったの今の!?」
ラブの言葉がきっかけになって三人揃って軽いパニック状態に陥る。
「あの怪物とかプリキュアって何? 私たち何であんなことできたの!?
 いつの間にこんな機械持ってたの!?」
「分からないってば!」
ラブも美希も祈里もその場でじたばたと暴れるが、運動しても分からないものは分からない。
いつしか三人は疲れて、はあはあ息をしながら立ち止まった。

「もしかして、あの人たちだったら何か知ってるかな……」
祈里の呟きに美希が尋ねる。
「あの人たちって? 今日来た人たちのこと?」
「うん、だってお客さんが来るなんて初めてで、それでこんなことが起きたんだもん」
「どうかしら……あの人たち、普通の人に見えたけど」
「私たちだって普通の女の子だってば!」 
美希の言葉にラブが抗議するかのように言う。祈里と美希はそれを見て苦笑した。
「でも、ラブ。たとえばあの……ほのかさんに、『私たち、プリキュアなんです。
 ところでプリキュアって何ですか?』って聞ける?」
う〜んと祈里とラブが難しい顔をした。
「聞けない……よね」
うんうんと祈里も頷いたが、別の提案を始めた。
「ね、ほのかさん、『図書館に行って調べものをする』って言ってたじゃない?
 ほらあの石のこと」
「そういえば……ブッキー、図書館行って調べてみるってこと?」
ええと祈里は頷いた。
「『プリキュア』っていうのが何なのか、それくらいは分かると思うの。
 ……分からなかったらその時はまた別の方法を考えないといけないけど」
「そうね……それが一番いい手かも」
美希の言葉にラブもこくこくと首を縦に振る。
「じゃあ、あの人たちと一緒に行ければ多分それがいいわね……、
 あの人たちが何かを知っている可能性もまだあるわけだし。
 それとなく聞き出せればそれが一番」
――とはいっても、「プリキュア」なんてそれとなく出てくる言葉じゃないわよね……
美希はそんな風に考えていたが、ラブは

「さっすが美希たん! じゃあ、一緒に行くように頼んでみよう!」
と答え家の中に駆け込む。美希と祈里もラブの後を追った。

もしかしたら表での騒ぎに気づかれているのかもしれないと思ったが、
その心配をする必要はなかった。ほのかは舞を助手にして石の測定を続けていたが、
二人とも自分の世界に集中しているようでラブたちが戻ってきたことにすら
気づいていなかった。時々舞が測定値を読み上げる声だけが二人の世界には響いている。

かれんたちはようやく勝負を終えたところのようで、
「ふ〜……」
かれんもりんも、ソファに背をもたれてはあはあと息をしている。
幾筋もの涙が伝った跡が頬に残っていた。
「りんちゃん、六個です」
「かれんも六個よ。じゃあ、今回は引き分けね。続きはまた今度」
――ぜ、全部食べたんだ……
祈里はかれんとりんが全部食べたことを知り言葉にならない驚きを感じていた。
どうしたらいいものか困っていたシュークリームが片付いたのはありがたかったが。

「あの〜、ほのかさん」
ラブが一同の責任者に見えるほのかに声をかける。ん? とほのかは顔を上げた。
「これから図書館に行くんですよね」
「ええ、そうよ。その予定。舞さんたちの人探しが先だけど」
「あ、そうなんですか」
どうする? とラブは後ろの二人を見たが、二人が後押しするように頷いたので
言葉を続けた。
「あの、私たちも一緒に行きます。図書館で調べたいことが少しあって。
 人探しも、お手伝いします」
え? とほのかがラブの顔を改めて見直した。舞もきょとんとした表情を浮かべている。
「それは助かるけど……いいのかしら」
「ええ、ちょっと。図書館で調べ物する時もしかすると……お世話になるかも
 しれなくて」
ほのかは少し不思議そうな表情を浮かべたがそれ以上深くは追求しなかった。舞が
「あの、よろしくお願いします」
と頭を下げる。ラブと美希、祈里は慌てて、
「い、いいっていいって! 私たちも暇だったんだし!」
と答える。
「でも……、」
ほのかはソファの方に目を送った。かれんとりんは相変わらずぐったりしている。
「いつ頃、出発できるかしら……?」
苦笑を浮かべるほのかに、ラブは「そしたら、今日泊まって行ったらいいんじゃないですか?」と笑った。
「そんなにしてもらっていいのかしら」
「ええもちろん。さっきも言いましたけど、私たち、ちょっと退屈してたから。
 人が一杯来て楽しいです。美希たんブッキー、今夜は御馳走作ろうよ」
「そうね、私が完璧な料理を作ってみせるわ」
冗談めかして答える美希にほのかも舞も少し笑う。
「じゃあ、水無月さんやりんさんが落ち着くのも待たないといけないし、
 今日は泊めてもらおうかしら」
「そうですね……、私もお料理手伝います」
舞の言葉に「じゃあみんなで何か作ろうよ」とラブが答える。
結局、夕食はほのかも入れた五人で作った。

その夜。舞はほのかと二人で割り当てられた部屋の中でスケッチブックを開いていた。
二人で寝るには少し狭い部屋だが、こんな大人数が押しかけて泊まっているのだから
それも当然だ。
普段は祈里が使っている部屋だそうで、あちこちに置いてある小物が女の子らしく可愛らしい。
「舞さん、描き終わった?」
ふうっと息をついて顔を上げたところを見計らってほのかが声をかける。
「あ、ほのかさん」
「秋元さんから聞いてはいたけど、本当に集中してるのね。私が部屋に戻ってきたことも気づかなかったでしょう?」
「ええ……すみません」
何となく謝った舞にほのかは近づき絵を見る。
「ああ、ラブさんたち?」
「ええ」
舞はにっこり笑った。
「ここ数日でこの中の人がすごく増えたんです」
「そうね。何だか不思議」
ぱらぱらとスケッチブックをめくると、測定中の自分の顔も見えた。
恥ずかしくなって次のページに行くと、シュークリームを食べているりんとかれんだ。
ふっと笑ってほのかは舞にスケッチブックを返した。
「――日向咲さん、早く見つかるといいわね」
「ええ……」
舞は俯く。もう寝ましょうといってほのかは部屋の明かりを消した。


その頃、近くの山は少し揺れていた。頂上の岩の後ろから光が漏れ出したかと思うと、
「うーん、やっと出れたぜチャチャチャ!」
火を司る男、モエルンバが岩の中から姿を現す。自分が今出てきたばかりの岩に目を
やりぶち壊してやろうかとも思ったが、いやいやと考え直した。

「そこにいるんだな、セニョリータ。プリキュアは俺が始末してやるぜ、チャチャ!」
彼の身体を炎が包んだかと思うと、その姿は掻き消えた。


前へ 次へ
コラボSS置き場へ戻る
indexへ戻る